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高額療養費制度の仕組みとその実態
高額医療費(正しくは療養費)制度が問題だ。と想ったら政権が引っ込め、議論も萎んだ。「今だけ金だけ自分だけ」アベノミクスの負の遺産は健在か。令和7年2月23日日経朝刊社説は、高齢者を優遇する高額療養費制度の見直しを求めている。
その通りだ。本来「健康保険」である。高齢者の盲目的延命のために保険料特に現役世代の組合健保の拠出金を浪費しての高額療養費、高齢者医療ではなく、現役世代将来世代の傷病からの回復と未来社会のためにこそ、高額療養費制度を見直し再構築すべきだ。
高額療養費制度は、月額医療費が所得により決まる一定額以上かかった場合、実際の医療費自己負担分と一定額の差額を還付するものだ。実際には還付(一度支払う)せず保険者が直接支払う仕組みもある。実質的に「医療費打ち止め、リミッター安心制度」である。
例えば大きな手術や人工呼吸器などの医療を受けると、月額100万円を超える、新型コロナで話題になったエクモなど使えば月1000万円以上、それがざっくりと月4万円から8万円ほどで打ち止めで済む。
高齢者の場合はさらに特典優遇制度があり、さらに負担額が減る。入院だけでなく外来通院でも適用される。現役世代なら一回の受診で数千円かかるところが、高齢者は所得にもよるが数百円、ワンコインで済むことも多い。だから高齢者は病院ショッピング、ドクターショッピングするのだ。
問題はその結果であり社会や保険料負担者に対するコスパである。
以下は、筆者が実際に経験した「救急車は断らない」とされるチェーン系救急病院における事例である。
一つ目の例は、90歳を超えた高齢者のケースである。入院時にはすでに認知症が進行しており、会話もできず寝たきりの状態だった。肺炎を患っていたため、人工呼吸器が装着されたが、容体は回復しなかった。いや、そもそもその年齢での回復は難しかったのだ。
やがて瞳孔が散大し、脳死状態と見られるようになった。しかし心臓は動き続けており、「死亡」には至らない。そのため人工呼吸器も点滴も止めることができなかった。
そのうち病室には異様な臭気が漂い始め、やがて廊下の病棟の端近くまで、強烈な死臭が広がった。おそらく腹部、すなわち消化管内で腐敗が始まっていたのだろう。家族の見舞いは一度もなく、医師も手の打ちようがない。安楽死は違法のため、人工呼吸器を外すこともできなかった。そうして約1か月後、気がつけば「死亡退院」となっていた。
これは20年ほど前の出来事だが、当時ですら月100万円を超える医療費がかかっていたと記憶している。家族の支援がないなかで、本人や家族の意思が確認できなければ、治療の差し控えもできない。結果として、人工呼吸器による盲目的な延命が続けられたのである。
二つ目は、60代前後の生活保護受給者で、狭心症の患者だった例である。本来であれば、薬物治療と食事制限に努めることで自宅療養が可能な状態だった。ところが、ある日突然、心臓の冠動脈バイパス手術を受けていた。胸には30センチ近い手術痕が残り、術後の痛みで寝たきりになっていた。
生活保護受給者であれば、医療費の自己負担はない。病院側も費用の取りはぐれがないため、医療行為は自由に行える。これは、いわば「相互利益・共依存」の関係である。
医師にとっては症例数を稼ぎたい(あるいは手術の練習をしたい)。病院にとっては、冠動脈バイパス術のような高額手術(基本手技料だけで80万円以上)を実施すれば利益が見込める。そして、患者にとっても、「働けない理由」が病気として正当化されるため、生活保護を受け続けられる。三者がそれぞれ得をする、いわば「三方一両得」的な構図となっていた。
湿布と保湿剤が上位に並ぶ処方薬の現実
先頃、処方医薬品の保険給付額ランキングが報道された。1位は保湿剤、2位は湿布、いずれも高齢者御用達の薬である。しかしこれらを使えばスッキリ回復、しない。延々死ぬまで使い続ける、回復しないにも関わらず。はては「美容クリーム代わり」に求める者すら多いとか。
鎮痛剤は胃痛の副作用が出やすい。ある時、ミイラのように湿布をほとんど全身に貼っていた高齢者が居た、それで胃が痛いという。まさに自爆行為だ。
田中内閣の老人医療費無料化は、国民皆保険と長寿化、核家族化、農林水産業衰退と相まって暇で不健康な高齢者を生み出した。暇な高齢者はちょっとした不調も気になる、医療費タダ冷暖房完備、病院に行くに決まっている、行けば同好の士ばかり、話は弾む、ゆえにサロンとまで言われた。
その後国家財政悪化で自己負担と言っても基本一割さらに特例色々でタダと大差ないワンコイン以下、気軽に病院をハシゴし山のような薬をもらい病気自慢する高齢者、故の高齢者医療費問題である。既に高齢者医療は保険として破綻しており、ゆえに別建て医療保険として切り離した。これを現役世代の組合健保の拠出金で支える、というより貢がせている。
健康保険制度の本来の目的とは何か
健康保険とはその名の通り、健康を回復して社会復帰し労働あるいは自立するための、互助システムである。そもそも保険とは、皆が支払った保険料より支払われる総医療費が少なくないと成立しない。多くの人が医療を利用せず保険料を支払い、一部の「運が悪い人」だけが医療を利用する、のでなければ立ち行かない。皆で仲良く病院で病気自慢、では破綻して当然である。
その点で高額医療費と言えど、回復し社会あるいは家庭に復帰し支える側に戻らなければ、施しいや捨て金になってしまう。それでは保険の体をなさない。高額療養費を給付すべき・して良いのは、大前提として社会家庭労働に復帰できること。ないしは年齢や社会家庭での立場に鑑み疾病に侵されるがままに苦しみ死にゆくのを看過するに堪えない場合、例えば現役世代のガン、難病などであろう。もちろん本人の生きる意志が最優先事項である。
長生きしても独居あるいは特養さらに入院した高齢者に家族が面会に来ない、と言われて四半世紀以上だ。医療費は安くても他の経費を転嫁するようになった。家族は高齢者に搾り取られてヘロヘロなのだ。そして自分の意志によらず管で生かされる。それが今の日本の長寿、百寿の現実である。
人生五十年とは戦後しばらく、かなり最近までのことだ。今の長寿が未曾有に不自然なのだ。制度も死生観も追いついていない。高額療養費については、まず本来の意義目的に立ち返り、保険としての持続性を考慮し再構築すべきだ。高齢者で社会的責任役割を終えているなら、回復が見込めないなら高額療養費を給付せず、高額療養費での盲目的延命は止め、緩和ケアに移行するべきだ。
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