初心者のための経済学:第2回「コストとは何か?」

こんにちは!自由主義研究所の藤丸です。

今回は「初心者のための経済学シリーズ」の第二回目です。

第一回目の「経済学とは何か?」は少しわかりにくかったかもしれませんが、今回の「コストとは何か?」は、わかりやすく、非常に重要な内容なので、是非御覧くださいね。

※第一回目はこちらです。シリーズは各回、完全に独立しているので、二回目からでも問題なくお読みいただけます。

初心者のための経済学 第1回「経済学とは何か?」|自由主義研究所
こんにちは、自由主義研究所の藤丸です。 今回から「初心者のための経済学」と題して、全10回のシリーズを書こうと思います。 これは、経済学に興味を持った人に、まず知ってもらいたい基本的な語についての全10回の簡単な解説シリーズです。 たとえば、 「経済学とはそもそも何?」 「コストとは?利益とは?何を意味するもの?」...

突然ですが、皆さんは「コスト」と聞くと、何を思い浮かべますか?

例えば、買い物での物の値段を思い浮かべる人も多いと思います。

コスト=物の値段?

例えば服の値段を比較したり、買いたい車の値段を比較したりします。

しかし、コストについて考えるための正しい方法は、

単にある商品にかかった費用だけを考えるのではなく、それを手に入れるために放棄したあらゆる可能性を考慮することです。

アメリカのジャーナリストのヘンリー・ハズリットは、『Economics in One Lesson(邦題:世界一シンプルな経済学)』という本を書きました。

ヘンリー・ハズリット

この本の冒頭で、ハズリットはパン屋の話を紹介しています。

ある日、子どもが誤ってボールを投げ、パン屋の窓を割ってしまいました。

ボールが突然飛んできて、パン屋の窓を割ってしまった!

パン屋は、当然怒ります。

しかし、そこで訪れた友人から思い直すように諭されます。

窓は割れてしまったので、パン屋は新しい窓を買わなければなりません。

そして、このパン屋による「新しい窓の購入」は、ガラス屋の売り上げになります。

そのおかげで、ガラス屋は材料を購入し、従業員に賃金を支払うことができます。

もしかしたら、そのガラス屋の従業員たちの何人かは、パン屋のパンを買うかもしれません。

ガラス屋の従業員が、パン屋のパンを買うかも?

だから、この「破壊活動(窓が割れたこと)」は本当は悲劇ではなく、
地域経済やその他の人々に利益をもたらす出来事なのです\(^o^)/

・・・・・。

・・・・・。


・・・・本当にそうでしょうか?

残念ながら、これは実際には出来事の全てを伝えてはいません。

そもそも、もしパン屋の窓が割れなかったら、パン屋は窓とお金をそのまま持ち続けられたはずです。

「窓が割られてしまったせいで、新しい窓を買わざるを得なくなった」だけであり、窓が割られなければ、わざわざ新しい窓を買う必要はなかったのです。

パン屋は自分のお金を新しい窓の購入ではなく、店先に置く新しい看板の購入に使ったかもしれませんし、新しい制服を買うために使ったかもしれません。

それは看板屋やアパレル店の利益になっていたはずなのです。

つまり、この話の「ガラス屋の利益」は、本来ならばパン屋が購入したはずの、「看板屋やアパレル店の損失」を意味するのです。

残念ながら、窓の修理に使われたお金が本来どう使われたかを、もはや知ることはできません。看板に使ったのか、制服に使ったのか、他のなにかに使ったのかはわかりません。

その代わりに、私たちの「目に見える」のは、パン屋の「新しい窓」だけです。

ハズリットが述べたこの視点こそが「機会費用」です。

窓の修理に使われた費用とは、単に支払った価格だけではなく、そのお金で購入できたはずのその他のすべての商品やサービスを含むのです。

ハズリットは次のように述べました。

「悪い経済学者はすぐに目に見えるものしか見ません。良い経済学者はその先も見るのです」

もしあなたが「パン屋の友人の論理は明らかに間違っている」と思うなら、今日世の中にどれほど多くの「悪い経済学者」がいるかに驚くかもしれません。

例えば、2008年にノーベル経済学賞を受賞した著名な経済学者ポール・クルーグマンは、

「9.11事件や自然災害、さらには架空の宇宙人からの攻撃のような事件でさえ、アメリカ経済を押し上げる」と主張しました。

ポール・クルーグマン

「パン屋の割れた窓」と同様に、です!

確かにこれらの悲劇が建設業や清掃業、対宇宙人兵器の開発などの雇用を生むのは事実でしょう。

しかし、それが社会全体をより豊かにするわけではありません!

窓が割れた場合と同様に、これらの事業で利益を得る企業は、同時に他の誰かの損失によって成り立っています。

重要なことは、経済学の目的は、単に働いたりお金を稼いだりすることではなく、私たち「個人の欲求や必要を満たすこと」だということです。

もし誰も対宇宙人兵器を望まず必要としないのであれば、そのために費やされたお金・時間・資源は無駄になります。

そのお金・時間・資源は本来は、人々が本当に欲しがり必要とする商品を生み出すために使われたはずなのです。

機会費用とは、「(もはや利用できない)時間・資源・お金」を使って、本来であればできたはずのあらゆることを意味します。

だからこそ、私たちはお金や時間の使い途を考えるとき、その行動がもたらす広範な影響を検討しなければならないのです。

これを考慮すれば、私たちが本当に望むものを実現するための資源が増え、結果として誰もがより豊かで幸福になれるはずです。

しかし、残念ながら、政府はパン屋の友人のように、「良い経済学者」の思考ができません。

政府は、財やサービスを提供して対価を得る生産者や製造業者やパン屋とは違うのです

政府が得るのは税金だけであり、政府はその税金を自らの選んだ計画に投じます。

例えば、新しいフットボールタジアム建設のために税を徴収すると、政治家は大きな試合を示して「これがあなたたちの税金で建てられたものだ!」と言います。

しかし、政府が課した税金によって国民がどのくらいのものを失ったのか、誰も見ることはできません。

税金がなければ、人々はそのお金を自分の好きなように使ったり、貯蓄したりできたのです。

新しい靴を買う人もいるでしょうし、旅行に行く人もいるでしょうし、起業の資金に充てる人もいるかもしれませんし、将来のために貯金する人もいるかもしれません。
可能性は無限大です。

私たちは自分にとってどんな支出が必要かを、どんな官僚よりも自分自身がよく知っているのです。

だからこそ、誰もが「良い経済学者」のように考えることが重要です。つまり、今すぐに目に見えるものだけでなく、目に見えないその先を考慮することが重要なのです。

それによって、お金の使い途について(長期的に)より賢明な判断ができるようになります。
そして、政治家が私たちからお金を奪おうとするときに、その責任を追及できるのです。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

このヘンリー・ハズリットが本で紹介しているパン屋の割れ窓の話は、もともとは、19世紀のフランスの経済学者フレデリック・バスティアの「見えるもの、見えないもの」の話が元になっています。

フレデリック・バスティア

バスティアの「見えるもの、見えないもの」については、先日、関税についての記事(↓)でも紹介していますので、よろしければ御覧ください。

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編集部より:この記事は自由主義研究所のnote 2025年5月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は自由主義研究所のnoteをご覧ください。