株主総会の時期になりました。そんな折、少し前ですが岸田文雄元首相がポッドキャストで一億総株主社会の実現に向けて努力をすべきとし、具体的に単元株廃止とバーチャル株主総会への意向を示しています。
岸田氏の首相在任中の功績の一つ、新NISAの導入は確かに評価できる政策でありましたし、資産運用立国というわかりやすい方針は株式市場とは無縁だった人を振り向かせました。一方、投資と言っても全く無縁だった人にとっては何をどう買ってよいかわからないところから始めるわけで、そういう方の投資でちょっとでも含み損が出ると「夜も寝られない!」と苦情を言うものです。そうはいっても儲かるときは普通預金の利息よりはるかに大きいし、株式の配当金も定期預金利息より多い、会社によっては各種割引券や無料券をくれるところもあり、「へぇ、面白いね」と感じてもらえる人が少しずつ増えていくのではないかと思います。
岸田氏のいう単元株廃止もバーチャル株主総会も北米では当たり前です。企業は単元株廃止⇒株主の増加⇒コスト増という懸念を示すと思いますが、ITが進んだ今日においてまさか手作業で株主名簿を作るわけでもないでしょう。そこは企業の努力が足りないというものです。
特に配当金政策については日本はせいぜい年2回配当ですが、アメリカ、カナダでは年4回が主流でカナダには毎月配当の会社は相当数あります。毎月配当の会社の場合、権利確定日が毎月ある訳で当然配当金額は年率換算の1/12です。これは配当による権利落ちのインパクトが小さいことを意味し、日本のように3月末の最終権利確定日とその翌日の権利落ちの日でギャップ計算をして日経平均上、〇百〇十円がそのギャップでこれを埋められるか、といった話は出てこないのです。
この毎月配当の会社のうち、私が特に資金を投じている会社は株式購入時の配当率でみると24%(現在の株価ですと年率が20%の配当)になっています。特殊な会社で普通に探しても出てこないと思いますが、こういうお宝系の企業はごろごろあり、他にも年率15%、12%、10%、9%程度の配当率で毎月配当の会社の株式を一定数、長期にわたりもっています。これは投資する側として極めて安定的にリターンが得られることが大きく、株価も上昇余地があるのです。時折極小企業に配当率だけ極めて高いところがありますが、それは危険で手出ししません。上述の企業群は出来高が毎日30万株から200万株程度あり時価総額も日本のプライム上場を満たすレベルなので売買もスムーズですし、業績も安定しています。
こういう投資環境が整うと一億総株主社会になるのだと思います。株=株価の振れ幅が大きい=素人は損をしやすいというイメージを打破する必要があります。そのためには企業側も努力する必要がありそうです。企業の株主管理を担当するのは総務部あたりだと思いますが、総務部というは割と風通しが悪いところで定年間近の方が「主」のように鎮座している会社もあるでしょう。経営陣は総務部を活性化させ、株主管理をもっと積極的に検討すべきでしょう。
岸田氏のいう株主総会の改善、特にオンライン化は一つの手立てです。日本は株主総会といえばどこか会場を借りて社員総出で手伝い、総会出席者に土産を持たせ、と上げ膳据え膳、「株主様は神様です」ぐらいの扱いだと思います。オンラインは実にさっぱりしており、それが良いのか悪いのかわかりませんが、正直出席したくなる代物ではありません。株主総会の案内も代行会社から山のように封筒が届きますが、中身はたいてい1枚の紙。そこに総会の日時とバーチャルのアクセス方法が記載されているだけです。あとは何もありません。日本のように立派な決算報告書が添付されることもありません。見たければウェブからIRを見てくれ、というようなものでしょう。
では最後に1億総株主社会になれるかどうか、もっと根本的な部分について考えてみましょう。株式投資とはその企業が将来成長することを前提としています。株価が上昇するには一般的には2つのアプローチがあり、規模の追求による業容拡大、もう一つは売り上げよりも利益率を重視し、同業他社に比べて稼ぎ方が図抜けている場合です。その中で日本の内需主体の企業を見ると少子高齢化の環境下、業容拡大を狙うには難しい業種や企業はたくさんあるのです。それらの会社は利益率の改善を図るべくスリム化ないし、M&Aでの規模の追求を図らない限り株価の上昇はないのです。
一般投資家からすれば「この会社にもう3年も投資しているのに株価は全然上がらないわね」というケースが増えてしまいやすくなります。それ故に私が以前から再三言っているように日本は上場企業数が多いからM&AやMBO、合併による上場廃止を推し進め、現在の上場会社数を2030年までに3割減らすぐらいのプランをすべきでしょう。それにより企業の経営効率が大きく好転し、株価は上昇しやすくなると思います。
つまり岸田氏のいう制度上の変更と共に「株式投資の原点」に立ち返り、個人一般が投資は面白いと思わなければ投資立国には程遠いというになるのでしょう。
では今日はこのぐらいで。

岸田前首相YouTubeより
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年6月9日の記事より転載させていただきました。