「日本が観光業で稼ぐ」のは本当にダメなのか?

黒坂岳央です。

SNSでは訪日外国人旅行者への不満、日本が観光業で盛り上がることに否定的な意見が広がっている。

確かに旅行者が増えると、一部で犯罪が増えたりマナー違反者が出ることはどうしても避けられない。これは比較的、お行儀が良いという自覚のある日本人でも同じことだ。実際、2025年4月、日本人二人が台湾のビルに落書きをしたとして送検されている。

「日本が観光業で稼ぐ」について「観光業は付加価値の低い新興国のビジネス」とか「労働人口が減っているのに人手が取られる」と、感情的に否定的意見が多いような印象を受ける。本当に観光業で稼ぐのはダメなのか?

bennymarty/iStock

観光業は日本のドル箱

経済産業省が2024年に発表した調査によると、訪日客消費額は推計8.1兆円で自動車に次いで2位の輸出産業となっている。これは半導体や鉄鋼を上回る規模だ。

2020年のコロナで客足はほぼゼロに落ちたが、その後の回復は想像以上に早く、2024年10月単月の来訪者で過去最多の331万人を更新し、年間の旅行収支も5.8兆円超へ膨らんだ。

まず、このデータから「観光業は稼げない」という意見と事実は異なるということがわかる。

では次に「観光業は後進国のビジネス」という意見について考察する。結論から言うと、これは間違いで実は観光業はG7など先進国が持つ強い産業なのである。

フランスではGDPの約9%、スペインでは12%超を占める主要産業である。アメリカはGDPの約7.6%(2023年)、雇用面では1,500万人超を支える巨大産業となっている。G7ではないが、中国はGDP比で約11%(コロナ前で13%超)、政府が観光振興を国家戦略として推進している。観光が「ダメな産業」なら他国でもそうした動きがあるはずだが、今のところは目立った施策はない。

我が国は2024年で7.5%(WTTC)の想定となる。観光業が盛り上がることで、円が買われ極端な円安に歯止めをかけてくれており、雇用を創出。外国人消費の約6割は地方部で発生している。

仮に現在日本で観光業すらダメなら円安はさらに進行していただろう。そう考えると「観光はダメ」ではなく、「観光に救われている。どのようにさらなる付加価値を引き出すか?」と解釈する方が生産的だ。

課題は解決できる

もちろん、いいことだけではない。渋滞やマナー違反などの副産物も出てしまう。円安は是正されても、インフレは起きる。

だが、それはすべてのビジネスについて言えることだ。たとえば、製造業は大量のエネルギーを消費し、CO2排出や工業廃水の問題を引き起こす。ITサービスは雇用が都市に集中するので、さらなる地方の人材流出と経済格差を加速させる。

現在、観光業が抱えている課題は解決できるものも少なくない。たとえば観光地の一極集中と混雑については、ダイナミックプライシングや時差入場でピークを平準化できる。地方と二都市間をパスで結ぶことで滞在を延ばし、客単価も向上するだろう。

また、労働生産性について言えば、QRチケット、AI翻訳チャットボット、混雑可視化アプリでストレスを低減できる余地があるだろう。そして、京都市の宿泊税のように、徴収分を公共交通や文化財保全へ循環させるスキームを全国に拡張することで観光業からの収益を高める。

観光業に文句ばかりでは前には進めない。課題はあれど、いつの時代も創意工夫で人類は乗り越えてきた歴史がある。

日本は円安と文化的魅力という追い風で観光業が盛り上がっている。もちろん混雑や物価上昇の副作用は無視できない。だが人口減と内需縮小が進む中で、観光という外需を呼び込めない状況こそが真の地獄だろう。

SNSで見かける「観光で稼ぐのはダサい」という意見は悲観ばかりで、「現況からさらにメリットをどう引き出すか?」という前向きな意見が少ないように思える。

 

■最新刊絶賛発売中!

[黒坂 岳央]のスキマ時間・1万円で始められる リスクをとらない起業術 (大和出版)

アバター画像
働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。