米国AI失業、日本も新卒AI氷河期になるのか?

黒坂岳央です。

アメリカで、AIの急速な進化により新卒のホワイトカラー職が急速に減少していることが明らかになった。その内容はNewsPicksの動画(2025年6月7日公開)で解説されている。

動画によると特にテック、金融、コンサル、法律などの高学歴者が目指す分野で影響が顕著で、AIがエントリーレベルの仕事を代替していることが主因という。

この現象は日本にも遅れて波及する可能性が高く、企業、若者、社会全体での対応をしなければ、人材の行き先に困ることになる。

本記事では、アメリカの現状を分析することで、これから日本に起きる影響を考察する目的を持って書いた。

Moor Studio/iStock

AIが新卒の仕事を奪っている

通常、米国においても日本同様に新卒は「安価で柔軟」な労働力として上の世代より雇用されやすい。

だが2025年のアメリカにおいて、全体失業率が3.6%に対し、新卒失業率が5.8%と「逆転現象」が起きている。これはAIの進化で急速にこの優位性が失われていることを意味する。「AI失業」という言葉があるが、まさにAIは現在進行系で「新卒が担う予定の仕事」を奪っているのだ。

過去において数々の調査で経営層が「エントリーレベル業務の大半はAIで代替可能」と回答していたが、その予測が的中したということになる。影響を受ける業務は以下の通りだ。

  • プログラミング:小規模コード作成やテストがAIで自動化。テック企業では「300社応募で面接3社しか通過できず」という厳しい事例もある。
  • 法律:契約書レビューが数週間から数時間に短縮。法律事務所のパラリーガル業務がAIに代替。
  • 金融・コンサル:データ分析やレポート作成が自動化。MBA卒の就職先が縮小。
  • 小売・サービス:AIボットがカスタマーサービスを代替。

Anthropicのダリオ・アモデ氏は、ビジネスインサイダーの記事で「1~5年でエントリーレベル職の50%が消滅、失業率は10~20%に上昇する可能性」と警告している。もちろん、トランプ関税やコロナ後経済の変動など、マクロ要因も影響している点は留意が必要だ。しかし、主要因はAI失業があると予測できる。

特に高度専門職、クリエイティブな仕事でエントリー職は消えていっている一方で、建設や医療は底堅い。ロボット技術の限界からフィジカルな職種は当面安定と推測される。

今後の新卒はどうなる?

当然だが、新卒は仕事の知識や経験、実績がない状態でエントリーする。誰もがそうだったように、大学を出た後、3年、4年とキャリア形成をする中でスキルを付けて一人前を目指すルートが王道だった。しかし、この最初の期間で与えられるはずだった仕事がなくなってしまえば彼らの行き先はなくなる。

実際起きているのはAIが雑務(議事録、雑務、データ加工など)を代替することで、新卒の経験学習の場や雇用理由そのものが消滅している現象だ。「雑務→経験→上流工程」のキャリアラダーが崩落し、将来のシニア人材供給が途絶えるリスクがある。企業はコスト優先でAIを採用するので、このトレンドが続けば長期的に人材育成の空洞化が起きるだろう。

SNSやAI関連記事ニュースの投稿において、新卒の仕事を奪うケースが取り上げられているのを目にすることがある。30代システムエンジニアが顧客に「新卒を採用するより私がAIを活用して工数カバーする」と提案して顧客が承諾。これにより、同氏は単価1.3倍の年収アップを実現したという。

仕事ができるベテランがますます富み、「できる人」へのラダー外しにあう新卒や若手はどうすればいいのか?

日本への影響はどうか?

日本では新卒一括採用や終身雇用がバッファとなり、即時的な影響は限定的だ。数年以内に同様の危機が波及する予測もある。

まず起きるのはIT系メガベンチャーでエンジニア職の新卒採用の見送りだ。これは米国でセールスフォースがAIを理由に技術職の採用凍結の発表をしたのと同じ構図である。

より中・長期トレンドでは、雑務の自動化で新卒は「貢献できる仕事が蒸発」、そうなれば中途採用が優先される。特にAI使いが積極採用されるだろう。

ホワイトカラーの高度専門職で新卒が一人前になるには数年間かかる。年収300万円のオファーでも、会社が負担するコストは社会保険料等などの法定福利費も加味して、ざっくり3年間で1,041万円、5年間では1,736万円にものぼる。「数年先の先行投資」と考えると企業側にはとてつもない巨費だ。

しかもこれまで新卒が担っていた雑務をベテランがAIで処理するなら、彼らにできる雑務がなくなり、時間単価における比較優位性が消滅する。それはつまり、会社は新人を採用する理由を失うということだ。

「困るのは新卒だけで自分には関係ない」と考えるべきではない。これは国家全体で取り組むべき事項である。

若者の失業増はますます結婚・出産率低下を加速する要因になり、人生への無気力化が起きれば社会不安が増大する。若年層の貧困化は必ず治安悪化とセットだからだ。「犯罪するほうがコスパがいい」という構図を作るべきではない。国家規模で取り組まなければ大きな社会問題化しかねない。

AI失業に備える策は?

もちろん、希望がないわけではない。一時的に混乱は起きるだろうが、いつの時代の変化も人類は必ず乗り越えてきた。

まずはとにかくAIリテラシーを高めることだ。24時間365日、低コスト、ハイパフォーマンスを出すAIに正面から人力で立ち向かっても勝ち目はない。AIを使って仕事を進める力を早い段階から身につけておくべきだ。

現在、大学は実質的な就職予備校のように機能している。そこで在学中にAIを使った技もプロジェクトやシミュレーションを経験できる場を提供する。そうすることで新卒に企業へのPR材料を作っておくのだ。

具体的にいえば、AIで議事録作成をしたり、データ分析などだ。従来、新卒が担っていた業務をAIを手足にする経験を積むことで「仕事を任せるスキル」がつくだろう。

また、要件定義や折衝など「人間力」重視のスキルを磨くことも重要だ。結局、AIがどれだけ進化しても仕事の起点は人間同士のコミュニケーションなので、ここの力をつけることで差別化するのだ。

さらに職業の選択肢も柔軟に考える必要がある。たとえばこれまでは「仕事するなら東京一択」という感覚を持っていた人も多いだろう。しかし、AIを活用するなら、伸びしろはむしろ地方だ。

地方の中小企業はAIどころかDXも非常に遅れている。地方でもインバウンド業などは活況で、マネーが集まるが業務効率の改善余地は大きい。そこで若くてAIリテラシーの高い人材として入れば、キャリア形成初期の実績や経験を積むこともできるだろう。

また、仕事内容も柔軟に考える余地はある。「ブルーカラー技術職はきつくてダサい」と敬遠する人は多いが、過去記事で書いた通り、電気工事士などインフラの仕事や医療などはAIの影響は受けづらい。加えて、事務職などと比べて圧倒的に人手不足の業界なので就職には困らないだろう。

AIによる新卒雇用の危機は、リーマンショックと違って「時間が経てば自然解消する」ものではない。恒久的に続いていく極めて大きな変革だ。

若いうちに身に着けておくべき知識や経験の総量は増加する一方でとても大変だ。しかし、これまで繰り返し言っている通り、技術は敵ではなく味方と捉えて活用する側に行く努力をするべきだろう。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。