駐在員家族に英語力は必要か?

英国政府が駐在員の帯同家族にも一定の英語力を要求するかも、という話があります。最近日経に出た記事ですが、確か、1年ぐらい前にも同様の話があったと記憶しています。これに対して日本人社会からは一定の抵抗や懸念があるようですが、私はその試験はあってもよいと思っています。

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そもそも記事によると求められる英語の能力も英検3級程度なのです。中学生英語で日常生活をするにおいて最低レベルの水準とも言えます。この程度の英語ができないと生活に支障が出るわけで駐在員家族として恥ずかしいだろう、というのが私の主張です。

反論派としては「海外駐在になるのは私の旦那。(最近は逆パターンもあります。)その旦那の会社の決定に基づき、旦那の会社に勤めているわけではない私が人生の自由度を会社によって変更させられ、更に赴任先の国から一定水準の英語を求められるのは二重の仕打ちではないか」と。

まぁそうですね。おっしゃる通り。ならば旦那と行かない自由もありです。そもそも海外駐在で家族帯同は5-8割程度なのです。これには子供の教育問題が最大の理由とされますが、それ以上に赴任先の安全性、特に奥様やお子様への生活環境がふさわしくない赴任地というのもあります。

実態として私の今までの経験上の感じからは、統計に出てこない話ですが、旦那が奥様を説得できなかったケースが潜在的に結構あるように見えます。しかもそれらの「経験上の感じ」とはここカナダの話であり、日本人女性には世界で最も人気がある国の一つにもかかわらずの話なのです。となれば赴任地が中東やロシア、アフリカや南米になれば「拒否権発動」は当然あるのでしょう。

海外生活に一種のアレルギーのようなものは少なからずの方が持っています。特に不安症になりやすい日本人女性の場合、英語ができない、知り合いもいない、日本食も一定の制約あるし、病院通いも簡単ではないと思い始めると不安で不安でしょうがなくなり、「私、やっぱり行かないわー」となるのでしょう。

一方、企業側は駐在員のメンタルヘルスのためにも「ご家族はなるべく帯同するように」と指導している会社もあります。言いたいことはわかりますが、おせっかいのし過ぎだと思います。では単身赴任の旦那はどんな生活をしているか、といえばひと昔前のように豪快に遊び歩く人は北米ではほとんどお目にかからなくなりました。先立つ軍資金がないどころか、日々の生活は「現地の物価高の上に日本の家族との二重生活によるコストアップで生活はアップップ」のようです。

ご家族の語学適応問題の解決方法としてポケトークのような翻訳機があるじゃないか、とおっしゃるでしょう。私もいろいろなところで日本とカナダの世界を経験していますが、実のところポケトークを見たことがないのです。もちろん使っている人も知りません。いったい翻訳機で会話するとはどういうことか、そんなまどろっこしいことは勘弁してほしいと思うのです。きっとホテルのチェックインには使えるかもしれませんが、逆にそれぐらいは勉強して欲しいのです。幸いにして英語は万国共通語です。

例えば私が経営する東京のシェアハウスや外国人専用アパートには世界各国様々な国の方がお住まいです。そのやり取りは英語オンリーです。中国や韓国の方、更には日系人でも英語オンリー。日本語が上手な外国人もいらっしゃいますが、私は日本語で来たメールも英語でしか返さないのでそのうち相手も英語だけのメールになります。なぜ、英語にこだわるかといえば言語表現に含まれる微妙なニュアンスが日本語だと通じないこともあるのですが、英語だと双方が明白に理解できるからです。

完全にドメスティックな生活しかないというなら日本語だけで全然問題ありません。言語としても素晴らしい言葉です。ただ、一旦外に出るとなれば自分が泣き寝入りしないためにも英語は受け入れざるを得ないのです。そう考えると英国の計らいは粋ではないかとすら私は思うのです。親心とも言えましょう。1週間だけ旅行に行くならポケトークでも耐えられるでしょう。しかしそれは自分らしさではないと思います。生活と旅行は違うのです。

駐在を命じられたそのご家族にとって「災いは忘れた頃にやってくる」ならぬ「英語は忘れてからやらされる」とぼやく方も多いと思います。かつて英語が一番嫌いだったという方とも接点がありましたが、必死に英語をしゃべっているの見て、「やればできるんじゃない」と心の中でエールを送ったこともあります。喜怒哀楽、それでも背中を押されることだって必要な時もあると思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年6月15日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。