相場の奥義、そんなものがあれば誰もが知りたいし、「AIの時代に奥義なるものはAIに聞け」なのかもしれません。私も相場とのお付き合いは長いのですが、数々の失敗を重ねて学んだこともあるし、いまだに同じ間違いをすることもあります。なぜ間違うのでしょうか?
1つに情報が多すぎるのだと思います。故に何が正しいのか誤解したり読み取り方が浅かったりするのです。例えば6月10日の日経には2つの為替に関するニュースがあります。1つは電子版で「円相場、一時145円に下落 チャート分析でみえてきた『雲』突破」。細かい内容は書きませんが要はチャート上、ドル円が節目を抜け、円安になりそうだという内容です。もう一つ、同日朝刊の紙面の記事に「伸びぬドル、米株と明暗 雇用改善も景気先行き懸念 行き場なき資金、株価押し上げ」という記事でこれはドル安になりそうだという内容です。

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この2つの記事を一般の方が読んだ時、その違いが判るのかどうかであります。前者の記事はドル円のペアの話で後者の話はドル全般の話なのです。どう違うのか、無理にこじつけるとドル指数は弱含みだけど対円は強含みという勝手な解釈が可能なのです。しかし、この2つの記事をつなぐ勝手解釈は論理的にはやや無理があるのもまた事実。つまり解釈する人が自己満足の世界に陥るだけで現実の相場はどこに向かうかわからないわけです。
これが情報過多と解釈の難しさであります。
日本で最後の相場師といえば是川銀蔵氏とされます。聞いたことがないという方も多いと思うし、名前を知っていてもなぜ最後の相場師なのか知らない方も多いでしょう。
通称、是銀氏は長い相場歴の中で80歳台半ばに差し掛かる頃、住友金属鉱山が鹿児島県の菱刈に金鉱を発見したニュースに接します。1981年のことです。是銀氏は菱刈に行き、自分の目で確かめ、様々な図書をチェックし、これはいけると判断し、同社株を買って買って買いまくるのです。金鉱発見発表前の株価は220円程度。是銀氏はこれを5000万株購入します。そして株価が700円を超えたところで売り抜け、半年で200億円を手にしたのです。
ただ、これには後日談があります。200億円を儲け、長者番付1位になっただけなら「へぇ、すごい」で終わるのですが、氏がお亡くなりになった時、氏が残したのは2LDKのマンションだけだったというのです。質素倹約で儲けは自身が作った子供を助けるための財団を通じてみんな寄付してしまったのです。
相場はある意味ゼロサムゲームに近いものがあります。厳密には為替はゼロサムですが、株式投資は一般にはゼロサムではありません。ただし、証券会社発表の信用取引の損益率を見れば売り方も買い方もプラスになることはまずないのです。それぐらい相場とは深いもの、そして勝った者は美酒に酔うのもよし、是銀さんのように相場そのものに魅せられ、勝負師としての人生を送り戦勝品は世のために使うのもありでしょう。
奥義とは結局自分で調べぬくしかなく、信念を持つしかないのです。上述のように報道は時としてわかりにくいのです。特に日経など専門紙の場合、記事数が非常に多いため、読む記事によってニュアンスが違うこともあり、何が本当だかわからなくなるのです。このブログのコメント欄にもどこかの記事を参照し、その一部を張り付け、「ほら、こう書いているじゃないか」と主張されることも数多くあります。ただそれはその方の信念と記事が一致したものか、単にそう書いてあるからお前の書く内容よりブランド力があるメディアが正しいのだ、という先入観とも言えるのです。
相場とはとにかく体得するしかありません。是銀さんは相場という類は全て経験したとされます。その中で独特の感を磨くわけです。
実は私も最近ある実験をしているのです。仮想通貨のアービトラージです。相場には様々な種類があり市場も複数あると市場間で微妙に成立価格に差が出ます。この差を利用して儲けることを裁定取引(アービトラージ)というのですが、仮想通貨の場合、この差が出やすいため、アービトラージの格好の対象になるのです。ただ、頭で言われても自分でやってみないとわかりません。そこで英国ロンドンのアービトラージの会社と結んで実験をしているのです。結論を言うと薄利多売型。つまり1回当たりの儲けは少ないので売買を頻繁にする必要があるのです。これが面倒くさい、つまり私の性分に全く合わないのです。なのでもう契約を破棄して止めるところです。小銭稼ぎというよりこういう世界もあることを知っただけでも十分なのです。
私の思う相場の奥義とは人間心理とAI的行動規範をどう読むか、だと考えています。その昔、野村證券の会長だった田淵節也氏と幕間つなぎの話し相手で差し飲みした際に田淵氏が「今の相場はコンピューターがやるからよくわからん」と申されたのが1989年頃、つまりバブルのピークの時だったと記憶しています。その言葉は私の相場観を大きく変えたのです。コンピューターに勝てる方法はないのか、と。その後、時折起きる株式相場のフラッシュクラッシュはまさにコンピュータープログラムが混乱をきたすことで起きるトラブルであり、それを支えるのは結局手作業で「下げ過ぎ!チャンス」と思う人間が相場を下支えするからこそ回復するのです。つまりコンピューターが絶対ではないとも言えます。
相場に絶対はありません。どんなプロ相場師でも勝率は6割とか7割でしょう。野球で打率が3割というのと同じです。10割なんていうのはないのです。気をつけるべきはボトムがどこにあるか、です。そして自分で始末に負えないほどの火傷を負わないようにすることこそ、奥義の本質とも言えるでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年6月20日の記事より転載させていただきました。