
G7カナナスキス・サミットの様子
首相官邸HPより
交渉より軍事力の時代
自公政権が少数与党に転落し、7月の参院選が重大なカギを握るなかで、「コメ大臣」の小泉進次郎氏が次期首相候補のトップに躍り出ています。備蓄米の放出増加で暴騰した米価を下げる一方、コメ議員、農水省、農協・農家のトランアングルの解体に着手する構えです。
父親から引き継いだ戦闘的なポーズ、メディアを自分のペースに乗せるうまさが特色です。既得権益で固まった農政の改革にぜひ成功してもらいと思います。進次郎氏の面構え、ファイティング・ポーズからはやる気はうかがえます。その一方、私は「コメ対策」の人気で首相候補のトップに立てるほど日本の政治は小粒であることに失望します。
「コメ、コメ」で日本中が騒いでいる時、カナダでG7サミット(先進7か国首脳会議)が開かれました(16、17日)。主役になるべきトランプ米大統領はなんと、「イランの戦況のほうが重大だ」とばかり、初日で帰国してしまいました。そんなことはこれまでありませんでした。他の主要国を見下すポーズを取りたかったに違いありません。子どもじみています。
メディアは「米不在でG7から回り」「G7ー1」と伝え、さらにはトランプ氏は「ロシアをG7に復帰させよう」、「中国も入れてG9にしよう」と思っているようです。要するに、現在のG7は大変動が始まっている世界情勢になんの対策もとれないから、軍事大国の米中ロの都合のいいように、世界を仕切りたいといっているのに等しい。G7の有名無実化です。
米国を除いたG6は、「大国の米国」の属国扱いなのです。関税引き上げでも、米国は独断専行し、これまでの同盟関係はご破算です。第1回、サミットがフランスで開かれ、今回でちょうど50回目でした。半世紀たったところで、世界秩序の形成に貢献してきたサミットをトランプ氏は無視にかかりました。
サミット参加国は「民主主義国、法の支配、政治的道義、外交」を尊重する主要国で構成されてきました。トランプ氏が「中露の加盟」をちらつかせたのは、もはや民主主義、法の支配、政治的道義より、軍事的大国であることを重視し、既存の世界秩序を壊したいとの本音をもらしたのです。つまり「軍事的大国の米中ロ」は互いにけん制しつつ、自分たちの利益を優先する秩序を作る考えなのでしょう。
西側(米国側)は大分裂が進んでいます。サミットの有名無実化、米国の同盟国の属国化、国連・WTOと言った国際組織の弱体化、高率関税を脅しに使う米国ファーストです。一方、東側(中露)はどうなのでしょう。中国はグローバルサウス(南の途上国)を束ねて属国化を進め、ロシアは北朝鮮を同盟という名の属国にしつつあります。米側の分裂、中ロ側の結束の同時進行です。
その背後には、グローバル化に対する反動、それによる格差拡大、インターネットとSNSという情報化がもたらす社会の分断化があるでしょう。それで世界は多極化し、国内は多党化・分断化が同時進行しており、交渉を軽視し、軍事力を行使する。国内政治では、財政を犠牲にしたポピュリズムで票を買い、選挙で勝とうとする。多くの国でそうした現象が深刻化しています。
20日の新聞のサミット特集(読売)をみると、「真の議題はトランプ氏」(米外交評議会名誉会長)、「G7の役割、今後も重要」(元駐英大使)、問われる国際協調体制」(証券会社のチーフエコノミスト)らの談話が並んでいます。社説では「G7は世界の安定を担う重責を果たせ」(日経)、「米国不在の危うさを示した」(読売)など、言わずもがなの指摘が多すぎます。
世界は多極化する中で、軍事的大国「G3」が世界を仕切る流れです。国内政治は多党化・分断化で、骨太の意思決定ができず、日本の国会の議論は「手取りの増加」、「ガソリン課税の見直し」「コメ価格の引き下げ」など、「小さな政治」に終始しています。小泉進次郎さん、「コメ大臣になってファイティングポーズをとったら、一躍、首相候補になれた」では恥ずかしい。世界、国内を俯瞰する政治をやりましょう。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年6月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。






