世界最強国家のトランプ米大統領は悩みだしている。イスラエルのイラン攻撃に米軍が参戦するか否かで揺れ出している。トランプ氏は19日、「2週間以内に決断を下す」というのだ。そこでトランプ氏の悩みを少し分析してみる。

イラン軍は20日、イスラエルに対する報復ミサイル攻撃を実施 2025年6月20日 タス二ム通信
イランの核関連施設を完全破壊するというイスラエルのイラン攻撃について、欧米諸国では支持でほぼコンセンサスが出来ている。「イランの無条件降伏」を要求するトランプ氏にとってもイランの核開発計画、具体的には濃縮ウラン関連活動の完全停止が最大の目的だ。その点では揺れがない。
カナダ西部のカナナスキスで開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、①イスラエルの自衛権を認める、②イランの核兵器製造につながる核関連活動を絶対に容認しない、③イランの核問題は最終的には関係国間の外交交渉で解決すべきだ、という3点から成る共同声明が発表されたばかりだ。米国もその共同声明には署名した。イスラエル軍がイランの核関連施設と核兵器運用手段ともなる弾道ミサイル開発の破壊に集中している現在、トランプ氏はその成果を待っている、といったところかもしれない。
ただし、イスラエル軍はナタンズのイラン核濃縮施設やイスファハンの施設を破壊してきたが、フォルドウの地下の濃縮関連施設はまだ無傷だ。地下50メートルから80メートルにある地下施設を破壊するためには米軍の「バンカーバスター」がどうしても必要となる。
イスラエル軍が13日、イラン攻撃を開始して20日で1週間を迎えた。イスラエル軍の「ライジング・ライオン作戦」は米軍の参戦で地下核施設を完全に破壊する段階にきている。一方、イラン側は米国製のバンカーバスターの投入は米軍の参戦を意味すると受け取っている。明確にいえば、米軍の武器がイラン攻撃に使用されたとしても国際法上は米国の参戦とはならない。例えば、ドイツが巡航ミサイル「タウルス」をウクライナ側に供与し、ウクライナ軍がそれを対ロシア戦に使用したとしても、ドイツはウクライナ戦争に参戦したとは見なされない。しかし、プーチン大統領が「タウルス」の供与はドイツがロシアとの戦いに参戦したことになる、と主張している。同じように、イラン側はバンカーバスターの投入は米軍の参戦と警告しているわけだ。
戦争嫌いで知られているトランプ氏にとって米軍の参戦は可能な限り避けたいはずだ。理由はある。イラン攻撃に参戦した場合、中東に駐在する約25000人の米軍兵士と基地がイラン側の攻撃の対象となる危険性が高まるからだ。
それだけではない。トランプ氏は「米国を再び偉大な国にする」(MAGA)を表明し、米国ファーストを掲げ、海外の戦争・紛争には極力関与しないことを公約してきた。それが今、イランの核計画を破壊するという名目があったとしても戦争に参戦することはその公約に反する。実際、米国内でトランプ氏を選挙で支持してきた国民がトランプ氏のイラン戦の参戦に反対の声を上げている。選挙公約の順守を重視するトランプ氏は悩まざるを得なくなるわけだ。
また、バンカーバスターによってイランの地下施設が破壊された場合、放射性物質が外部に放出する危険性、地域の地下水汚染といった影響が出てくるかもしれない。放射性物質の放出による被害が出た場合、国際社会から米国批判の声が出てくるのは必至だ。ウィ―ンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)によると、イスラエルの核関連施設への空爆で施設内での放射能汚染は出ているが、外部に放射能漏れの報告は目下、ないという。
そのほか、米軍が参戦する前にイランに駐在する外国人の避難問題がある。例えば、ドイツの場合、イスラエルに約4000人、イランに1000人のドイツ人がいる。彼らの避難はまだ完了していないことも、トランプ氏がイラン攻撃へゴー・サインを躊躇する理由の一つとなっている。
20日にはジュネーブで英仏独の3国外相と欧州連合(EU)のカラス外務・安全保障政策上級代表がイランのアラグチ外相と会合する。イラン側がどのような提案を出すかは不明だが、イラン側が核の放棄を表明したとしても欧米側はそのイラン側の提案を信頼できず、イラン側の時間稼ぎと受け取る可能性が濃厚だ。ただし、交渉が始まり、次回の協議日程が発表されるならば、トランプ氏は同盟国の外交努力を完全には無視できない、といった事情が出てくるかもしれない。
いずれにしても、イスラエルのネタニヤフ首相は「イスラエルは単独でもイランの核施設を完全に破壊する」と強調している。トランプ氏の悩みは案外早く解決するかもしれない。イスラエル軍の「イラン攻撃」は日ごと、激しくなってきているのだ。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年6月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






