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広告収入減、部数減、コスト増
新聞がやたらと薄くなってきたと思いませんか。そうです、ページ数を減らし、用紙、印刷代、制作費、輸送費などを節約しているのです。価格(定価)は据え置いたままですから、読者は釈然としない気持ちでしょう。商品の価格を据え置き、内容量を減らす行為はステルス値上げと呼ばれます。
全国紙の朝刊のページ数を調べてみました。6月後半、朝日新聞は24、26、28、30ページで、24ー28ページが標準型です。毎日はどうでしょうか。20、22ページがほとんどで20-22ページが標準です。産経は20ー24ページです。読売は28、30、32ページなどで28ー30ページが標準になっています。都議選の候補者紹介、自社ものの竜王戦(将棋)が重なった日は例外的に36ページでした。
数年前、10年前は読売、朝日は42ページの日が多かった。当時に比べ、10ページは減らしているでしょう。かつては読売の「ギネスブックに載る1000万部」に対抗し、朝日は「日本のリーディングペーパー(主導的新聞)」と名乗っていました。今、26ページの新聞を手に取ると、新聞の退潮ぶりを実感します。
日経は28、36、40、44ページです。日経は株価、投資信託などの相場表に4ページも割いているのと、製作費がかからず、参加企業から協賛金をとれるシンポジウム、会議ものを連日、大量に載せていますから、全国紙のなかで唯一40ページ超の日がかなりあります。読者のほとんどが全部、目を通すとは思えない、相場表はネットに移し、会議ものはもっと減らすべきなのです。
ステルスとは、「こっそり」、「隠密に」という意味で、軍事の分野でステルス戦闘機といえば、レーダーで探知されない戦闘機のことです。インフレが始まった当初、新聞は他業界のステルス値上げを取り上げ、不透明な商法を批判したりしていました。もっとも物価高騰が全分野、全商品・サービスに広がった現在では、一般企業は「みんなで渡れば怖くない」と、堂々と値上げに走っています。
それがどうでしょう、新聞自らがステルス値上げをするようになりました。新聞は読者離れが深刻になり、値上げすると部数が落ち込みますから、もっぱらステルス値上げで経営危機をしのいでいるようです。
新聞用紙の使用量は重量ベースで1997年ころは450万トン、2023年は200万トンで半分に減っています。一般紙の発行部数は2011年が4400万部、23年が2600万部です。新聞社の減少、押し紙、積み紙(販売店に押し付けて見かけの部数を維持する)の削減、広告がネットに流れ、広告のページ数が減るなどの結果です。新聞離れによる経営難で記者、支局などの取材網の削減、ニュース量の減少で記事面を減らしていることも影響しています。夕刊を全面的または地域的に廃止、土曜日は廃止の新聞社も出ています。
では定価(購読料)はどうでしょうか。朝日、毎日は23年春に4400円から4900円に値上げしました。日経は23年7月に4500円を4900円に、産経は同8月に4000円を4500円にしました。読売は値上げをしなければ他社の部数をとれると考えたのか、値上げを我慢していました。その効果がないためなのか、25年1月に4400円から4800円に値上げしました。
どこの新聞社でも、値上げすれば部数は減るし、値上げによる収入増を部数減による収入減が上回り、経営が改善しない。購読料が入ってこない押し紙、積み紙の廃止で経費を削減したものの、それだけでは追いつかなくなり、ステルス値上げが続々と広がっているのです。
朝日新聞のメディア・コンテンツ事業(新聞、ネット)は25年3月期は29億円の営業赤字とのことです。新聞経営の限界点に近づいている社は多く、新聞事業だけを区分すれば、赤字の新聞社が増えていることでしょう。上位社は不動産収入、系列のテレビ局からの収益配分、イベント、電子版収入などで経営を支えています。それができる新聞社は少数です。
情報はネットで取れるからいいというものではありません。情報の発掘・総覧性、情報の分析、解説、政策提言、公共の声の伝達といった機能は、他の情報媒体に比べ、まだまだ存在価値はあります。誤った情報、偏向報道があっても、新聞の持つ社会的機能は存続させる意義はあります。
紙に印刷することの限界、人手不足で個別配達も限界、「いつでもどこでも情報を取れる」という機能の欠如などを克服するには、いつまでも紙媒体の固執せず、デジタル化していくしかありません。その場合、販売店網、各地に持っている印刷工場などの整理統合が必要でしょう。
シンクタンク、研究所、大学などとの協働、記者と研究者の協力なども欠かせません。デジタル教科書に否定的であったり、AI技術(人工知能)、SNSの欠点ばかりあげつらい、紙媒体にしがみついているような経営姿勢の転換は不可欠です。そのためには、新聞経営の中枢に時代の中核的世代を据えることです。他業界に比べ、新聞社の経営陣が高齢化していることを懸念しています。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年6月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。