参議院選、減税案が注目だが…:起こるべくして起きた悪い物価高

参議院選挙がスタートしました。第一声を分析した日経の「各党の力点」の表を眺めていて私なりに分類してみました。主要政党の傾向は3つに分かれます。

日本記者クラブ主催党首討論会で発言する野田佳彦代表 立憲民主党HPより

減税や物価高には淡白で、ほかの政策に力点:自民、維新、参政
何が何でも物価高対策:立憲、公明、れいわ
バランス型:国民、共産

「ひろ党」を作ったらお前は何を主張するかと聞かれたら「国の歳入歳出管理再編成と効率的歳出による財務の徹底的見直し」です。あとは健康保険料など社会保障費の見直しもすべきでこれは維新の主張と重なります。国内インフラのメンテ対策と高齢化社会に於けるコンパクトシティ推進、外国人による不動産取得の規制強化も行いたいところです。その中で今日は物価高対策について私見を述べます。

外から見る日本の物価高問題はある意味、滑稽なところがあるのです。まず、この20数年間、企業が我慢に我慢を重ねて値上げをせず、レッドオーシャンの中で血みどろの戦いをして1円でも安くという姿勢を続けてきたのに2022年ぐらいから「もう無理!」となったことで一気に値上げラッシュ、便乗値上げも含め、「上げられる時に上げておけ」の様相になっています。

総務省統計局の戦後の物価の推移をみると明白な特徴が見て取れます。1947年からバブル崩壊時までの物価上昇局面、失われた時代の物価停滞局面、そして2022年からの物価再上昇局面です。戦後からバブルまでの物価高は高度経済成長に伴うもので健全な物価上昇でした。途中2度の石油ショックといった外部の影響もありましたが、基本的には日本復興と成長というポジティブなものでした。

一方、バブル時は確かに日本の物価水準、特に不動産は狂乱であり、世界水準をはるかに凌駕していたため、バブルの崩壊で調整が生じます。私が特に問題視したのはサラリーマンの住宅ローンで、バブル期前後に購入した物件で25年程度の高額のローン返済を終えたら物件価値がほとんど消滅していたケースが多く、本来消費に回るべくお金がバブル期に設定した借入金の返済に追われ、日本経済が廻らなくなった主因の一つだと考えています。つまりローン期間分だけ消費が低迷したのです。これが失われた30年と期間的にほぼ符合するのです。

その住宅価格もバブル崩壊から20年経ち、リーマンショックを経た2009年頃には大都市部で底打ち傾向が見られ、不動産価格に回復の兆しが見えます。つまり不動産価格は将来の物価高を既に暗示したのです。にもかかわらず一般物価は消費者の激しい抵抗で物価の頭が抑えられます。そこに発生したコロナは経済をいびつなものにしたのですが、もう一つ重要なのはそれまでの1ドル110円程度の為替レートが2022年ごろを契機に円安に進みます。理由は諸外国との金融政策の差が如実に表れたからです。これにより輸入価格が上昇、コロナによる物流停滞もあり、企業の我慢の限界を超えるのです。

私が見る2022年から始まる物価高は日本経済にとって起こるべくして起きた悪い物価高とも言えます。

ではこれを与党の給付金案や野党がいう消費税減税で乗り越えられるかといえば一時しのぎであり、根本解決にはならないのです。物価は長い上り坂を上がり始めたところです。とすれば消費税を時限で下げるとか、食品の消費税を下げるといった小手先では効果は出ず、抜本的な対策が必要です。残念ながら日本は自給自足経済が成り立たないので輸入に頼る以上、方策は限られます。一番効果的なのは金利を引き上げ円高にもっていくこと、これは即効性があります。輸出は基本的に現地化を進めるべきだと思います。そうすればアメリカの関税問題のようなものが発生しても避けられます。

次に政治レベルで検討してもらいたいのが財務省改革と特別会計の在り方です。特別会計はその趣旨や目的が明白で収入と支出を個別に計上するのですが、13ほどある特別会計はかなりの好決算をたたき出しています。例えば24年7月に発表された23年の特会会計では外国為替資金特会が3.9兆円プラス、年金特会は4.6兆円などで特会の合計で12.7兆円も黒字なのです。トヨタの黒字額が4.9兆円ですからいかに大きな金額かお分かりになるでしょう。一般会計とは全く違う様相とも言えます。この黒字の配分がいかにもご都合主義的であり、兆円単位のお金がごく一部の人の采配で決まっているのです。

現金には色がつかない、という言葉があります。これは一般会計のお金とかこれは〇〇特会のお金といった色は本来ないのです。余剰は余剰であり、それは一つにまとめて集中管理すべきなのです。ところが日本は特会の権利を担当省庁が握りしめており、手放さないわけです。これを許しているのは誰かと言えばたぶん財務省が主導しながら省庁間で「なぁなぁの関係」ができているゆえにその仕組みを改革できないのだとみています。ならば財務省を徹底改革せよ、そしてその歳入歳出をより効率的に使うことで様々な税金を下げる工夫をせよ、というのが私のポイントなのです。

また企業の儲け分を従業員の給与に上乗せやすいよう政府が給与の上乗せ分に対して企業への特別税額控除枠を作るなどして国と企業が連携して給与所得者の所得水準向上を図るべきです。個人的には日本の給与水準を2030年までに今より5割上げるぐらいの施策が必要です。そうしないと恒常的に上昇していくであろう物価高には勝てないのです。

つまり私は与野党が提示する物価高対策とは全く違う観点が必要だと思っています。それと与野党は対策に対する目標値を持っていないのです。その対策をすることでどれだけの効果があるのかを数値で示すべきでしょう。感覚論では意味がないと思います。

さてどんな選挙結果になるのか、どこが勝っても大した差は出ないのかもしれませんね。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年7月4日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。