日米関税交渉「30%」が防衛ラインの大失態:農業死守で自動車失うか

日米関税交渉をめぐって、トランプ米大統領は7月1日、日本との合意が難しいとの見解を示し、対日関税の税率を30〜35%に引き上げる可能性にまで言及しました。これまでの24%(基本税率10%+停止中の上乗せ税率14%)から大幅な引き上げになる可能性があり、日本政府にとっては極めて深刻な局面です。政府は自動車などの分野別関税の撤廃を求めて交渉してきましたが、もはや「撤廃」ではなく「大幅な引き上げ回避」が最優先課題となっています。

トランプ大統領の日本批判は、6月末に日米閣僚協議が不調に終わった直後から激化し、メディアでは「日本に自動車25%関税の手紙を出す」とまで述べ、SNSでも日本が米国産コメを受け取らないことに不満をぶつけました。米国政府は当初、日本を「交渉が最も進んでいる国」と期待していましたが、期待が裏切られたことで「強硬な相手」と見なすようになり、交渉の空気は一変しました。

石破茂首相 自民党HPより (2)

石破首相は2日、トランプ大統領の発言に対して「関税より投資だ」と主張し、日本は米国最大の対内投資国であり、雇用創出にも貢献していることを強調しました。しかし、米国側は関税の実利を重視しており、根本的な認識のズレがあると専門家は指摘しています。特にトランプ政権は、通商拡大法232条に基づく関税を重視し、日本側の「撤廃可能」とする見立ては甘かったといえます。

交渉の早い段階で、日本政府内では米国産コメをミニマムアクセス枠で特別に受け入れる案も浮上していました。TPPでは年間7万トンの米国産コメ輸入枠が設けられていた経緯もあり、これを再活用する選択肢があったはずです。しかし日本政府は農業を守る姿勢を貫き、結果としてコメの譲歩を拒みました。そのため、トランプ氏の苛立ちはコメ問題に集中し、自動車への高関税という報復的措置につながる懸念が高まっています。

コメや原油の輸入拡大は物価高に苦しむ国民にとって救いになるはずでしたが、日本政府はそれを拒んだことで、自動車産業を犠牲にするかたちになりつつあります。もし相互関税が30〜35%に設定されれば、自動車には最大55%の関税が課される可能性もあり、日本最大の輸出産業が壊滅的な打撃を受けかねません。

自動車メーカー側としては、今後は米国での現地生産へとシフトする構えも見られますが、国内から自動車産業が失われれば、関連する500万人以上の雇用が失われ、日本経済に計り知れない影響を及ぼすことになります。それにもかかわらず、首相や官房長官が「農業を犠牲にしない」と繰り返し発言したことに疑問を感じざるを得ません。

交渉の立て直しは困難を極めています。石破政権は間近に参院選を控えており、選挙戦と相互関税の発動時期が重なってしまうため、農業や自動車などでの譲歩も難しい状況です。

こうしたなか、日本商工会議所の小林健会頭は「ある程度は我慢しなければならない部分もある」と述べ、農産品については「ある程度は開放すべき」との認識を示しました。

「トランプ大統領が関心を持っている間に交渉を急ぐべきだった」という政府関係者の発言が象徴するように、日本政府の交渉姿勢には大きな戦略ミスがあったとの認識が確定しつつあります。

石破茂首相 自民党HPより