黒坂岳央です。
統計データやニュースで「外国人が日本の不動産を買い漁る」というものはさんざん目にしてきた。しかし、実際に肌感覚でそのように感じたことはこれまでなかった。
だが、今回筆者が引っ越しに際し、物件購入に複数の物件を内覧した時に「実感」があった。もちろん、この話は個人の体験談に基づくものであり、日本全土を統計的に見た場合はまた違う結果が出るかもしれない。しかし、あくまで局地的、肌感覚ではそう感じる出来事だったということだ。
内覧した8つの戸建て、タワマン物件のすべてが「外国人オーナー」だったのだ。
これは東京や大阪といった大都市の話ではない。舞台は中心地から離れた九州の地方都市である。外国人による不動産所有はもはや都市圏の一部の事例ではなく、確実に地方にも浸透しつつある。
※本稿は統計データによらない個人の体験に基づく肌感覚を言語化したものだ。筆者のこの体験が日本全土で起きていることを示さない点には留意が必要である。

kieferpix/iStock
富裕層が日本移住を決めた理由
内覧した物件のほとんどは空き部屋だったが、いくつかは現在もオーナーが住んでいる物件だった。
販売物件の外国人オーナーと家の売買について直接会話。彼は近所付き合いや住環境、家の状態など詳細を話してくれたが、このオーナーは流暢な日本語でこちらが聞いていない話も熱心に教えてくれた。興味深かったので30分ほどその会話に付き合うことになった。
彼は夫婦で開業医を営んでおり、子どもは慶應大学法学部と国立医学部に進学。移住先に日本を選んだ理由は、「日本は競争がイージーだから」と答えた。
母国では熾烈な教育・職業競争にさらされ、家族の精神的な負担も大変大きかったという。だが一発奮起して日本に移住してからは子どもたちも極端な受験競争に巻き込まれることなく、青春と学びの両立を果たせたことで「日本に移住して正解だった」と満足げに話す。
そして今住んでいる物件を手放す理由は「もっといい物件に引っ越したいから」という。その価格は2億5000万円ほどで九州の地方としてはかなり割高である。近所のオーナーは外国人だらけであり、みな新築で家を買った人ばかりだといっていた。
確かに1億円から2億円後半の価格レンジでは一般の日本人にはなかなか手が出ない。

物件内覧中の様子(撮影許可取得済)
国際化する住宅街と教育環境
そして彼らからは「お金に物を言わせて乱暴に日本の不動産を買い漁り、地域を不安に陥れている」という感じはしなかった。一部の地域においては地元住民と衝突もあるという報道をよく聞くが、少なくともこの地域ではそういう話はないと彼も不動産業者も口を揃える。オンライン上にもそうした声は一切ない(このエリアは高い物件ほど、外国人オーナーが多いということも内覧時に初めて知った)。
外国人である彼らも地域行事や清掃活動にも積極的に参加し、「日本のコミュニティに溶け込もう」という意志がはっきりと見えた。「ここに引っ越すと年に3回、清掃活動やイベントがあるから参加が必要だよ!うちは家内が毎回熱心に参加した」とか「近所のみんなも張り切ってるから結構楽しいよ」と笑顔いっぱいに教えてくれた。
また、子供を通わせる学校を複数見学をした際にも、どのクラスにも3〜4人は外国籍の児童が在籍していると教師から聞いた。親は総じて高学歴が多く、医師やITエンジニア、経営者が中心で、いくつも塾や習い事をさせて学校には日本語教室も併設されているという。そしてこれは私立学校ではなく、公立の小学校の話だ。
「インターナショナルな環境」は東京や大阪だけではないのだと感じた。

物件内覧中の様子(撮影許可取得済)
高まる不動産価格と“構造的な格差”の兆候
だが、手放しで歓迎できる変化ばかりでもない。
実際、筆者が話を聞いた不動産業者は、「2億円超の新築物件は、ほぼすべて外国人が購入済」といった。さらに、これから建設中の住宅街ですら完成前にあっという間に完売、その購入層もやはり外国人富裕層であるという。SUUMOなど一般ポータルサイトに載る前に売り切れてしまうようだ。
筆者は資産形成の観点からも、新築物件の購入を早々に選択肢から外していたが、内覧を進める中で「新築は外国人が買い、日本人は中古に甘んじる」という構図が垣間見え、複雑な感情を抱いた。
このような状況は、今後の地方都市の住宅価格に大きな影響を及ぼす可能性がある。地域に溶け込もうとする個々人の姿勢とは別に、マクロで見れば「日本人が新築に手が届かなくなる構造」が着実に進行しているといえる。
◇
日本は、グローバル競争において“強さ”ではなく“緩やかさ”という魅力で人を惹きつけ始めている。これは国際的に見れば稀有なポジションであり、いまや日本は「戦いに疲れた優秀な人材が休息しながら力を発揮する国」としての役割を担い始めているのかもしれない。
外国人富裕層が日本の地方都市に根を張ることで生まれる影響は、経済、教育、文化の各側面に波及していく。その変化をいかに受け入れ、共に築いていくかが、これからの地方都市に問われるテーマとなろう。
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