黒坂岳央です。
「発言」ほど誰でも気軽に出来て、あっさり人生を終わらせるものはない。たった一言がそれまで蓄積した信用を蒸発させてしまう危うさがある。そして本人は気づかないまま、相手から無言でレッドカードをされてしまう発言があると思っている。
特にビジネス感覚が強めの相手にいってしまうのは非常に危険なワードを取り上げる。

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「忙しいのでできません」
もっとも軽率に信用を失う言葉の一つが、「忙しいのでできません」であるだろう。時間という資源は、与えられるものではなく「配分」するものである。そのため「忙しい」は「あなたに時間を配分する価値がない」「調整力がない」と解釈されやすく、受け手によっては「やりたくない」と放置する態度と受け取られる。
もちろん、物理的に対応が難しい状況も存在するだろう。ちなみに筆者の場合は先方へ代替案を示すようにしている。「◯日なら対応可能ですがいかがでしょうか?」「3は厳しいですが2であればご対応可能です」といった形で、誠意と能力の両方を示せるからである。
逆に「できません」とだけ言い切る姿勢は、「自分にはそれ以上の工夫も提案もできません」と宣言しているに等しい。本人にその意図がなくとも、相手にはそう映る危険がある。
「自分は指示通りやっただけです」
これは、責任から逃れたいときについ口を突いて出る言葉かもしれない。だが、受け手には真逆の印象を与えることが多いだろう。
ある不動産の内覧時、予定変更によりトラブルが発生したと判明した瞬間、こちらが何も言わないのに営業担当者は「自分は上司の指示通りにやっただけなので」と言ったことがあった。責任の所在を明確にしたい気持ちは理解できる。だが、それは「自分は問題と無関係です」と切り離すような姿勢に映り、信用を損なう結果になる。
ビジネスの現場では、誰か一人が全責任を負うことは少ない。上司や会社、顧客など関係者全体で共有する構造になっている。だからこそ、誰もが「自分も一部の責任を担う」という意識を持って行動する姿勢が問われる。
筆者は、たとえ自分の責任割合が小さいと感じる場面でも、「こちらの力不足で期待通りにいかず、申し訳ありませんでした」と積極的に謝意を示すようにしている。下手な言い方をしたり、相手を間違えると「全面的に過ちを認めたので賠償しろ」となりかねないので注意は必要だが、「力不足だった点は申し訳ない。今後については、このようにフォローをさせてもらいたい」という言い方なら大きな問題にはならないだろう。これまでは「いや、あなたのせいではないですよ」と相手からフォローされることも多く、むしろ信頼関係が強まる場面すらあった。
仕事で責任から逃げる姿勢は信用を失う。逃げない姿勢は逆に信用を獲得すると思っている。
「納得できません」
さすがにこれを言う人は20代前半までと信じたいが、世界は広いので中年でも「自分を納得させろ」という態度の人は一定数いる。SNSや記事、動画のコメントでも「自分は納得できない」と言われることがある。
まず前提として、すべての人を納得させることは不可能である。たとえば政治家が会食の写真を投稿すると「税金でいい思いしやがって!」と批判され、インスタントラーメンを食べると「頑張ってますPRうざい!」と批判され、お弁当を食べると「妻を家に押し込む前時代的な人」と批判される。金銭の授受が発生するクライアント相手でないなら、相手を納得させる義務なんて負わないからこうした批判は無視でいい。
そして職場で上司からの指示に「納得できないからやりません」と言う人がいるが、これは非常にまずい。会社員は上司からの指示に従う「義務」があり、上司は部下の納得は必要としない。その代わりに「仕事の責任」を上司が取る構図になっている。
「納得できない」なんていってしまえば二度と重要な仕事を任されなくなるだけなので、損をするのは自分自身だ。
「プライベート優先なので」
最近はプライベートを大事にしようという風潮があるので、このような発言も増えたのではないだろうか。確かにワークライフバランス自体は大切であり、それ自身に異論はない。余暇時間に誰が何をしようと自由である。
問題はそんな発言を職場でしてしまうことにある。職場は結果と給与を交換する場であり、労務サービス提供者側は権利を主張できるのと同時に、結果を出すという義務を履行することが求められる。
「プライベート優先」を思うのは自由だが、口には出さない方が良い。理由はデメリットしかないからだ。たとえば自分についた担当者が「プライベート優先なので」と言って途中で仕事を放棄したら「それでは困るので他の人に替えてください」となるだけである。替えがなければ他社に移られ、発言者は自社の立場が危うくなるだけである。
プライベートを尊重することと、職務上の責任を果たすことを両立できていないと見なされるリスクを抱える。お金を払う顧客からすれば、相手のプライベート優先度は関心事ではないのだ。
◇
明らかな差別発言などとは異なり、本稿で取り上げた発言は実際に自分も見聞きしてきた「油断するとつい口から出る一言」ばかりだ。だが言葉は口から出した瞬間に取り消すことは不可能で、一生相手の「相手から言われた言葉履歴」に残り続ける。特に仕事は「信用」という資産を使うゲームなので、発言には本当に慎重になった方が良いと思うのだ。
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