国連都市の改修費は誰が払うのか:明らかになった紛争解決能力のなさ

アルプスの小国オーストリアは中立主義を国是とし、欧州ではスイスと共に北大西洋条約機構(NATO)に加盟していない国だ。同時に、首都ウィーン市のドナウ沿いには国連都市がある。イランや北朝鮮の核開発問題でメディアに頻繁に登場する国際原子力機関(IAEA)の他、国連薬物犯罪事務局(UNODC)、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会、国連工業開発機関(UNIDO)、国際麻薬統制委員会(INCB)、国際連合宇宙局(UNOOSA)などの国連専門機関が入っている。ウィーン子は国連シティと呼んでいる。

ウィ―ン国連都市の正面入口(2013年4月撮影)

国連都市は、ウィーン市が土地を提供し、1973年から1979年にかけ、オーストリアの建築家ヨハン・シュターバーの設計に基づいてドナウ川沿いに建設された。建物はA、B、C、D、E、F、Gビルがあり、会議所として後日、新たにMビルが建てられた。IAEAはAビルとBビル、UNIDOはDビル、CTBTOはEビルといった具合に機関によってビルが異なる。IAEAやUNIDOの理事会が行われる時はCビルで通常開催されるが、年次総会などは多数の参加者が集まるのでMビルで開かれる。

ところで、国連都市は建築された当時は非常にモダンな建物で目を引いたが、建設から45年以上を経て、改修が必要となってきた。問題は、その改修費を誰が払うかでホスト国オーストリア、ウィーン市と国連機関の間で協議を重ねているが、いまだ合意できずにいる。

ニューヨークの国連本部やジュネーブの欧州本部とは異なり、ウィ―ンの国連都市(ウィーン国連センター=VIC)の建物はオーストリアの所有だ。その建設費用は当時、オーストリアとウイーン市が負担。そして同都市に誘致された国連機関は年間、28セントという象徴的な賃料を払うことになっている。問題はメインテナンス代だ。国連の高層ビルが後日、建築基準や消防基準を満たしていない点も発見されて、緊急に対策が必要となってきたのだ。

オーストリア国営放送(ORF)のフーベルト・キキンガ―記者によると「必要な改修工事については、国連機関とオーストリアが50:50で分担することで合意してきたが、その費用の上限は年間総額600万ユーロに制限されている。それを超過する場合、誰が支払うかが問題となる」という。国連側も経費節約モードだから、予算以外の費用を工面することは容易ではない。ちなみに、未払いの改修費用の総額は約3億3000万ユーロになる。

例えば、現行の配管では、緊急時に消防車が建物の1階から上階へ消火用水を直接ポンプで送ることができないから、緊急に対応しなければならない。防火対策だけではない。オフィス、会議室、平屋根、そして暖房・空調システムの改修なども控えている、といった具合だ。

国連の場合、緊急に特別資金が必要となった場合、経済力のある加盟国が通常予算の枠外で資金を提供するケースがある。国連(加盟国193カ国)で最大の分担金を担っているのは米国で、通常予算への分担金率は22%だ。ただし、トランプ米大統領がホワイトハウス入りして以来、国連を「米国民の税金を浪費するだけで成果のない機関」と受け取られ、米国は国連に対して距離を置いてきている。米国から援助はもはや期待できないだろう。可能性があるとすれば、2019年に日本を抜いて国連の第2の分担国となった中国や、サウジアラビアなどの一部の裕福なアラブ諸国からの支援だ。

いずれにしても、イランの核問題やウクライナ戦争で国連の紛争解決能力のなさが明らかになった今日、国連機関に多くの資金を提供する加盟国は少ない。ウィーンの国連都市も建物の改修が必要だが、その前に、国連全体が世界の平和実現に貢献できるため機関となるために改革が求められているのが現状だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年7月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。