中年からの「なくなる物欲、高まる物欲」

黒坂岳央です。

一般的に30代から物欲は消えると言われる。確かにこれは部分的に正しいし、多くの人に共感が得られる話ではないだろうか。その一方、逆に若い頃より高まる物欲もあると思っている。

筆者の自身の肌感覚による物欲の変化を元にこの現象を考察したい。

※なお、物欲の定義は物理的に限らず、機能や体験など消費欲も含める。

lielos/iStock

なくなる欲求は?

多くの中年になると確実になくなる欲求、その筆頭が見栄の欲求だろう。一般的にはかつて憧れていた高級ブランド、自慢が主目的のアイテムに興味がなくなっていく。

筆者も20代の頃は自分をよく見せたい欲求がかなり強く、お金がないのに無理して高級ブランド品を買ったり見たりしていた。だが、今はまったく興味がない。手持ちバッグについては所有すらしなくなり、今は物の運搬は宅配サービスで済ませて極力手ぶらである。

その理由はシンプルで「中年になると誰もが自分の人生に集中する」からである。一通りいろんな経験をすることで他人に見栄を張ることの虚しさを理解し、承認欲求の消化は仕事やSNSで済ませることが増えていく。

また、子供がいる家庭は人生のテーマのほとんどが子供になるので、他人に見栄を張ることにますます興味がなくなる。これは肌感覚としての傾向だが、中年になることで子供は小綺麗でも親は見た目に気を使わなくなる人が増えると感じる。人生の主役が自分より子供になるからだろう。

たまに中年になってもなお、承認欲求に取り憑かれた人がいるが、それはもう例外であり、普通は自分の人生との戦いに集中するので見栄の消費は消えていく。

仕事道具はむしろ欲求が高まる

その一方で「仕事道具」についてはむしろ、可処分所得が増える中年の方が若い頃よりお金をかけるし、消費欲は高まると思っている。

筆者は仕事で使う道具については、できるだけ良いものをしっかり選んで購入するようになった。たとえば昔はボールペンは100円で3本入り、みたいなできるだけ安いものを買っていたが、今はエルゴノミクスデザインでとにかく快適で、使っていて気持ちいいものを高くても買う、といったイメージだ。椅子も机もこだわって選び、そして大事に使う事が増えた。

その理由は人生の中で「仕事」に意識が向くようになるからだ。若い頃はプライベートを充実させたり、友達と遊ぶことに興味があるが、一通り遊びを経験すると「自己成長、自己実現」「社会貢献、市場価値」といったテーマに興味が移る。

自分の所与の能力は変えることは不可能だが、使用する道具で気持ちよく仕事ができるなら、より良いものを使いたいという欲求は高まるのだ。

サラリーマンでも良いスーツや靴を買う、という人も増える年代である。これは見方によっては「自己投資」に近い属性があるが、直接仕事のパフォーマンスというリターンを高めるというより、「環境整備」に近い性質があるといえる。

情報や体験への出費も増える

そして中年になると「人生は経験と思い出を増やすゲーム」という本質に気づく。体験から吸収できる感受性も衰えることに気づき始めるタイミングが来るのだ。

そのため、お金はある程度確保し、とにかく体が動き意欲が消えないうちにいろんな情報や経験を稼ぐようになっていく。

筆者は30代前半までは「情報は無料でネットから得るのがコスパがいい」と考えていたが、今では遠方へ足を運んでできるだけリアルイベントに行くようにしている。昔は1年に1度だった家族旅行も頻度が格段に高まった。

外に出ることで家の中でインターネットばかり使う生活と比べれば、人生の充実度は格段に上がると感じる。もとい、中年になるとあらゆる受動的な娯楽にほとんど飽きてしまい、五感を刺激し、体を動かすダイナミックな経験を通じてビビッドに感性を動かすことがますます楽しくなってくる。旅行でも歴史や文化を理解することで、ただ観光地のランドマークを点で移動するだけだった旅行が移動中も意味を伴うエンタメになる。

「お金は価値交換券」とはよく言ったもので、ただお金だけを増やしたところで、使わなければ何の意味もない。あの世にお金を持っていけないのだ。

そして年を取ればお金を増やす、貯める力は自然と高まるが、使う力は減少していく。しかし、年を取っても…いや年を取ってからの方が楽しめる消費も存在する。本稿で取り上げたように使うべきはその領域だろう。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。