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1. 経緯
中野区議会スマートウェルネスシティ調査特別委員会における報告では
令和6年度から、スマートウェルネスシティ(以後、SWC)の理念に基づく「健康づくり」「つながりづくり」「まちづくり」の観点から検討し、ヘルスリテラシーの向上、ソーシャルキャピタルの醸成、歩きたくなる魅力あるユニバーサルデザインのまちづくりといった施策の方向性を示したSWC中野構想(案)を令和7年3月にとりまとめ、同年4月、庁内にSWC推進会議を設置し、令和7年度中の策定を目指している。
としている。
中野区において、このSWCが令和6年度から動き出したのは、令和5年11月27日中野区議会本会議(第4回定例会)における私の一般質問で取り上げたところからである。
私が所属する中野区議会の自由民主党会派は、令和5年11月に42都道府県131区市町村(2025年6月現在)が加盟するSWC首長研究会のチャーターメンバーである新潟県見附市の視察に行った。
研究会設立時の共同宣言で、プロジェクトの目的として、ウェルネスをこれからのまちづくりの中核に捉え、健康に関心のある層だけが参加するこれまでの政策から脱却し、市民誰もが参加し、生活習慣病予防及び寝たきり予防を可能とするまちづくりを目指す。そのために、科学的根拠に基づき、市民の健康状態の改善が実証された健康まちづくり政策を、自治体間の連携によって、3年をめどに推進していこうというものである。
その考え方に感銘を受け、中野区でも是非ともこの考え方、政策を推進すべきだと思ったところ、実は中野区もSWC首長研究会に2014年から加盟していた。この10年間、議会、区民には全く事業の説明をされることはなく、ただただ加盟しているだけであった。そこで私は議会で取り上げて、塩漬けになっていたSWCを復活させたわけである。
上記の報告では、これまでの経過として、
SWC の理念に賛同した自治体の首長が参加する「SWC首長研究会」に、中野区長は平成26年(2014年)から加盟しており、全国の先進自治体の事例を参考にしながら、健幸を軸としたまちづくりの方向性を模索してきた。
としており、かなり苦しい言い訳をしている。
2. スマートウェルネスシティ見附市の試み
見附市では、スマートウエルネス施策として、「見附市健幸ポイント」事業を実施している。この事業は、市民の健康づくりを応援し、地域を活性化することを目的とした事業で、歩数や健康づくり事業への参加、健康診断の受診、ダイエットや筋肉増加といった健康に資する活動を行った市民に対し、ポイントを付与する事業である。
特に歩くことを推奨しており、国土交通省「まちづくりにおける健康増進効果を把握するための歩行量調査のガイドライン」に示されている
『一歩当たりの医療費抑制効果が0.065円から0.072円を参考に、今よりも1,500歩多く歩くことを目指すことで、1人当たり年間約3万5,000円の医療費相当が抑制できる』
と推定し、毎日8,000歩以上歩いた人に、年間6,000ポイントを付与している。結果的に医療費、介護費が抑制され、行政コストである国民健康保険、介護保険事業会計の繰出金の抑制につながったということである。
医療費削減のバックデータとして、筑波大学の久野譜也教授の報告(ICTと超高齢化対応の「健幸都市」-Smart Wellness Cityによる健康長寿世界一の実現を目指して-,ICT超高齢社会構想会議第2回WG,2013年1月24日)は界隈の方々には有名な図面であるが、参考のために掲載する。個別運動プログラムの有無によって、医療費が大きく変化することがわかる。
様々な健康施策があるが、将来的に少子化で歳入減少、高齢化で医療費・介護費用増加し続け、財政悪化で困難を極める自治体運営にとって渡りに船の政策である。また個人の財布の負担軽減にもなる、これがスマートウェルネスシティの概念を体現している好事例である。
3. 中野区が目指すスマートウェルネスシティとは
前出の中野区議会SWC調査特別委員会における報告では、方向性として主に3つの施策を挙げている。
- 健康づくり:ヘルスリテラシーの向上を目指し、健康への関心を高め、行動変容を促し、健康寿命延伸のための正しい知識を広めます。特に「健康無関心層」へのアプローチも重視する。
- つながりづくり:ソーシャルキャピタルの醸成を目標に、共通の趣味や関心を持つ人がつながりやすい環境、多様な人が参加しやすい開かれた環境づくりを進める。
- まちづくり:歩きたくなる魅力あるユニバーサルデザインのまちを目指し、公共インフラの整備、文化・産業の振興に取り組む。
これらの施策は、「ひとへのアプローチ」と「まちへのアプローチ」の両面から展開される。推進体制として、全庁的なSWC推進会議を設置し、地域、大学、医療機関、金融機関、民間企業などとも連携・協働する。
また国民健康保険や介護保険などのデータ分析にAI技術や外部専門機関を活用、特に九州大学との連携による「LIFE Study」では、中野区民の健康関連データを統合・分析し、健康寿命の延伸や健康格差の解消を目指すとのことである。ポイントは区民の意識と行動を変える行動変容である。
4.中野区におけるSWCの具体的施策
本年度、中野区においても見附市と同様、徒歩数などに応じて最大6000円相当のポイントに交換できる「中野健幸ポイント事業」を展開する。
中野区はスマートウェルネスシティ(SWC)首長研究会に10年以上前から加盟していたが、これまで具体的な活動はなかった。しかし、この空白期間はむしろ好機と捉えることができる。なぜなら、先日「デジタル地域通貨で地域経済を活性化せよ:中野区“ナカペイ”の挑戦」で紹介した中野区のデジタル地域通貨“ナカペイ”の完成を待つことができたためである。
ナカペイは、柔軟なポイント制度の構築と区民への直接的なポイント配布を可能にするツールであり、SWCの推進において大きな役割を果たすことが期待される。また、この健幸ポイント事業を通じて、区民が「歩くことが生活の一部である」という行動変容を促し、「歩きたくなるまちづくり」もさらに推進していく。
ナカペイに付与される最大6,000ポイントは、中野区内でのみ利用可能である。この制限が、区民の健康増進だけでなく、地域経済の循環にも貢献する。
さらに、地域活動における有償ボランティア制度の導入も中野区に提案しており、これも推進の方針である。このように、健康・経済・地域活動のすべてが相乗効果を生み出す「スパイラルアップ」を目指していく。
今後、自治体は組織の縦割りをなくし、各部署が協力して地域全体の発展に貢献していくことが、より一層重要と考える。