中野区が今、地域経済の活性化と区民のウェルネス向上に向けて、大きな一歩を踏み出そうとしている。その鍵となるのが、デジタル地域通貨「ナカペイ」である。


地域経済の活性化は、多くの自治体にとって喫緊の課題。少子高齢化が進む中で、地域に根ざした消費を促し、経済の好循環を生み出す仕組みが求められている。そんな中、中野区は、単なるキャッシュレス決済にとどまらない、戦略的なデジタル地域通貨の活用を打ち出した。
「ナカペイ」の最大の特徴は、その柔軟性と地域還元性にある。例えば、今年度から始まる「中野健幸ポイント事業」。これは、区民がウォーキングなどの健康活動に取り組むことでポイントが付与される仕組みである。このポイントは、現金ではなく「ナカペイ」として区内で利用可能になる。つまり、健康になればなるほど、区内の商店や施設で使えるお金が増えるというわけである。
「ナカペイ」の基本設計については、著者が中野区議会議員の立場で中野区に提案をしてきた。ベースとしては2023年4月の統一地方選挙における中野区議会自民党の公約に掲げていたものである。当時の生煮えの政策であるが、「アフターコロナにおける地域経済・地域活動の活力向上」に掲載している。

同コラムで紹介しているが、コロナ前後の2019年度と2020年度の「特別区たばこ税」を比較すると、東京都23区全体で90.6%と減少する中、都心の自治体では、千代田区67.4%、中央区74.6%、港区74.8%、新宿区84.7%と激減となり、中野区においては99.6%でほぼ変わらず、全体が減少する中では相対的に増加していた時期があった。
この状況は“たばこ”以外でも同様であった。コロナという巨大インパクトがもたらしたものであるが、環境をつくれば、地元自治体に経済の果実を引っ張り込むことが可能なのではと著者は考え続けている。
そこで提案したのが、デジタル地域通貨による地域経済圏の確立である。しかしデジタル地域通貨だけではプレミアム付商品券事業と同様、プレミアムがない時期には誰も利用しないツールに成り下がってしまう。そこで恒久的に使われる仕様とする必要があった。
そこで私は有償ボランティア制度などを創造し、地域活動に従事した方にデジタル地域通貨のポイントが付与される仕組みが必要であると考えた。また上述のウォーキングでポイントを得られる取り組みは、見附市をはじめとする先進事例である。健康活動が医療費の抑制につながるという科学的根拠に基づき、区民の行動変容を促すことで、結果的に自治体の財政健全化にも寄与することが期待される。そして、「ナカペイ」の活用により、この健康活動で得たポイントが、確実に中野区内の経済圏で循環する仕組みが構築されている。区外で使えないという特性が、地域内消費を力強く後押しするものである。
また先日のエントリー「中野区の未来をデータで描く:RESASが示すまちづくりの羅針盤」で紹介したが、
フェリカポケットマーケティング代表取締役社長の納村哲二氏は自著「地域通貨が示す新たな選択「円」より「縁」」の88ページで、RESASのデータを基に分析されていた。散布図の第1・2象限は地元でお金を使う自治体を意味しており、湘南~三浦半島エリアの地域が並ぶ。同エリアはよく「地元大好き」という方が多い地域性であり、地元にお金を落とそうという感性が強いのではないかと推測されている。
中野区も「地元大好き」でお金を落とそうというマインドを醸成するため、郷土愛を育む必要がある。近年ではシビックプライドともいわれる。
区民がシビックプライドを持って、すべてが「ナカペイ」と連携することで、地域貢献が直接的な経済的メリットにつながる形を模索している。これにより、ウェルネス(健康)×エコノミー(経済)×コミュニティ(地域)という3つの要素が有機的に結びつき、互いに高め合う「スパイラルアップ」が実現できると信じている。
これからの自治体運営には、従来の縦割り組織の壁を越え、各部署が連携し、地域全体の活性化に貢献するという視点が不可欠である。中野区の「ナカペイ」は、まさにその先駆けとなる挑戦と言えるであろう。地域通貨が、単なる決済手段ではなく、区民の健康増進、地域経済の活性化、そしてコミュニティの強化を同時に実現する強力なツールとなる未来に、大いに期待が膨らむ。






