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(前回:外国人労働政策に求められる制度的展開)
前回は、我が国の外国人労働者政策に関する現況と受け入れ計画について整理した。今回はそれを踏まえ、今後活発化することが予想される「外国人労働者政策」に関する政党間の議論について考察したい。
外国人労働者の受け入れをどう捉えるか
労働力不足の視点からすれば、池田信夫氏が提唱する「賃金の適正化と解雇規制の緩和による労働力の再配分」によって、日本人労働者である程度まかなえるとする立論がある。
ただし、この理論には以下のような課題が指摘されている。
- 制度改革には時間と政治的コストがかかり、即効性は期待できない
- 賃金改善だけで日本人労働者の供給が充足するかは不透明であり、現場の魅力や負担に左右される
また、「外国人労働力に依存する前に、技術革新による構造的な人手不足解消を目指すべき」とする議論もあるが、それらはすでに各所で試みられている。技術革新が可能であっても、それが制度・資本・現場運用に浸透するには時間と投資が必要である。特に介護業のように、身体的接触や対人対応が不可欠な分野では、ロボティクスやAIによる完全な代替には限界がある。清掃・運送業も、人間の柔軟な対応が求められる場面が多く、完全自動化にはなお時間を要する。
以上、二つの代替理論を見渡しても、仮に両方を部分的に採用したとしても、現実の労働力不足を外国人材なしで乗り越えることは制度設計上、極めて難しい――というのが筆者の判断である。
その他、外国人労働者の受け入れに抑制的な立場をとる政党の主張としては、以下のような論点が挙げられる。
- 地域コミュニティの維持を重視する人口政策
- 国体・文化的同質性の維持を目的とする社会的保守論
- 社会保障制度(生活保護・医療・教育等)への影響を懸念する抑制論
これらの主張には一定の妥当性があるものの、仮にそれらを根拠に外国人労働者の受け入れを大幅に制限するならば、不足する労働力をまかなう代替手段の提示が不可欠となる。もしくは、「外国人労働者の受け入れを抑える代わりに、日本の経済規模の縮小や社会保障制度の後退を容認する」という立論が必要になるだろう。
いずれにしても、各種メディアにおいて、国政政党が「感情的な論理」や「建前としての抑制論」のみで本件を語ることは、議論の空洞化を招くだけでなく、政策判断の危険性を増す。この点において、報道機関は慎重かつ構造的な議論を後押しすべきである。
具体的な受け入れ数の提示と政策の検証
前稿では、業界ごとの外国人労働者の実数と政府による受け入れ計画について触れた。また、今後は政府が関係省庁に対し、産業ごとの粒度を細かくした将来推計を公表させるべきだと提案した。
それに加えて、主要国政政党は、業界別に「どの程度の外国人労働者の受け入れが必要か」を数値で示し、それに基づく具体的な政策を公表する必要がある。外国人労働者の受け入れは、姿勢に差があったとしても、今後の日本の国体と制度設計に直結する事業であり、定性的な表現だけでは議論にならない。
実際、「抑制的にすべき」「積極的に受け入れるべき」といった抽象的な主張が、実際の数値を精査すればほとんど差がなかった、というケースは少なくない。
以上を踏まえ、次回は「外国人労働者の受け入れに関する司令塔」の設立を視野に入れた制度提案について論じたい。
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