我が国の外国人労働者に関する諸課題

高橋 富人

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参議院議員選挙が後半戦に入った。中盤以降、各党が急速に外国人政策に力を入れはじめた印象がある。とりわけ今選挙の台風の目ともいえる参政党が掲げる「日本人ファースト」というキャッチフレーズとそのスタンスが、選挙戦全体に一定の影響を及ぼしているようだ。

日本国憲法の前文を参照するなら、「国民の福利の最大化」は国家の責務であり、このスローガンも一面では妥当なものと捉えられよう。

とはいえ、「日本人ファースト」が暗に含む(あるいはそう受け取られる)外国人排斥的・差別的な「空気感」が社会的議論を呼び起こしてもいる。「自国民を優先する」という理念と、「他者を排除しようとする」態度との境界が曖昧になることで、制度論の地平を飛び越えて、感情的な対立を助長しかねない危うさも孕んでいる。

近頃では、報道各社が主要政党に対して「労働力としての外国人」に関する見解を聞き取る記事が相次いでいる。これは外国人政策が選挙の争点として顕在化してきた証左であり、社会全体がこのテーマに向き合う機運の高まりを示すものといえる。

これまで筆者自身、佐倉市における外国人労働者の子どもたちが直面する「語学教育の不足」や、主に外国人が営む「ヤード問題」などについて、政策的な提言を重ねてきた立場からすると、政治が外国人政策に正面から取り組む契機として歓迎したい。

ただ一方で、今選挙期間中の報道の多くが表層的にとどまっている点は看過し難い。政策の本質に踏み込んだ報道は少なく、結果として“右か左か”という二項対立の構図ばかりが強調されている。

以上を踏まえ、次稿以降では以下の三つの視点をもとに論点を整理し、制度論としての外国人政策の再構築に向けた提言を試みたい。

1. 選挙報道における制度的視点の欠如

現状の報道では、「排外的か否か」「差別的表現か否か」という表層的な観点に終始し、外国人労働者制度が内包する構造的課題や運用上の不整合に十分な検証が加えられていない。

外国人労働者がどの分野で必要とされ、どのような人数規模で推移しているのか。また、現行制度にどのような課題があるのか。こうした問いを出発点に、報道各社が各党・候補者に質す姿勢こそが求められている。この視点をもとに、選挙報道のあるべき在り方を提案したい。

2. 現行制度における外国人労働者の課題

現行制度では、技能実習制度や特定技能制度を通じて数多くの外国人が日本社会に受け入れられている。一方で、制度の狭隘性ゆえに就労の継続が困難となる事例も少なくない。

仮放免制度のように、制度の網を外れた外国人が法的にも社会的にも宙ぶらりんの状態に置かれる例は後を絶たず、これはもはや法のグレーゾーンというより、制度設計そのものに潜む構造的な課題といえる。この現状を受け止め、具体的な制度の問題点に焦点を当てて考察する。

3. 求められる制度的展開

人口減少と産業構造の変化が進むなかで、我が国に必要なのは「排除する制度」ではなく、「計画的かつ人道的に受け入れる制度」である。いずれの政党も、「外国人労働者の受け入れ自体」には必ずしも反対していない。とするならば、現行制度に対してどのような具体的施策を講じるべきか――それこそが議論の中心であるべきだ。

このような制度設計の試みは、「受け入れるか否か」という単純な二項対立ではなく、「国益」「社会統合」「制度安定」という三つの軸から外国人政策を捉える契機となるはずである。

この連載が完了する頃には参議院選挙も終えているだろう。しかし、制度論は選挙の後にこそ意味をもつ。だからこそ、私たちは冷静に、そして構造的に本件に向き合わねばならない。