黒坂岳央です。
一般的に「人生の勝ち組」とは、経済的・時間的自由を手にした者を指す。確かに、多くの資産を築き、ラグジュアリーな生活を送る人々は、憧れの対象のように見える。
しかし、それは本当に幸せな姿だろうか。ネット上には、宝くじの高額当選や持ち株の急騰などで、突如として経済的・時間的自由を手に入れたものの、逆に生きがいを失い、奈落の底へと落ちていった人々が語る実話が存在する。
筆者自身は大富豪ではないが、ある程度経済的に困らず、自由な時間も得てきた中で確信している。それは本当の勝ち組とは「経験値を持つ者」ということだ。
残された人生もひたすらお金を増やすより、経験値を増やすことにこだわって生きていきたい。

maruco/iStock
お金では買えない「人生経験」
節約と労働、そして一定の金融知識と時間さえあれば、自由な人生は決して夢物語ではない。特にインデックス投資や副業が広く普及した現代では、堅実な人間であれば、数千万円から1億円規模の資産を築くことも不可能ではなくなった。その道筋はきわめて明快である。
だが自分自身の経験から強く感じるのことは、「形だけFIREを達成しても、真の幸福にはつながらない」という事だ。
たとえば、節約と貯金で1億円の資産を築いたとしても、4%ルールに従って年間400万円を取り崩すという生活では、多くの人が「資産が減るのが怖い」と感じ、結局は極端な節制生活に陥ってしまう。
FIREまでの道のりは細く、FIRE達成後はさらに細くなってしまうなら多くの人が憧れるほどの価値がそこにあるのか?ということは疑問だ。確かにFIREすれば「自由な時間」だけは潤沢にある。問題はその潤沢の時間を使って何をするか?である。
資産残高ばかりを気にして、「人生を味わう」ことが抜け落ちてしまえば、本末転倒だ。突飛な例を出さずとも、定年退職後に年金生活を送っている人々が、本当に「経済的・時間的自由を手にしたから幸せ」と言えるのだろうか?
「病気と老化に怯えて生きていくのも辛いし、暇なので早くお迎えが来てほしい」自分はこういった老人をそこそこ見てきたので、「自由時間だけはある状態」をあまり幸福には思わないのだ。
人生の本当の豊かさは「経験」
では、人生を本当の意味で豊かにしてくれるものとは何か。それは間違いなく「経験値」である。
「DIE WITH ZERO」という書籍でも語られているように、経験値は資産のように数値化も換金もできない。だが、時間の経過とともに複利のように価値を増していく。
若い頃のがむしゃらな努力、恐怖を乗り越えて挑んだチャレンジ、そして数々の失敗の果てに得た成功体験は、年齢を重ねるほどに深みを増し、幾度となく人生を温めてくれる。
そして何より、経験値を積むのに巨額の資金も生まれ持った才能も必要ない。必要なのは、ただ一つ。「リスクを取って行動する勇気」である。
お金で買える「体験」には限界がある
「体験格差」という言葉が叫ばれるようになったが、筆者自身、かつて貧乏旅行を繰り返していた立場から見れば、それはやや本質ではないと思っている。
若い頃の筆者は、青春18きっぷ、夜行バス、車中泊といった手段で旅を重ねていた。だが、今になって振り返ると、創意工夫の末にたどり着いた小さな発見や、独特の苦労も含めて、むしろ当時の旅の方がずっと楽しかったと感じる瞬間が多い。
五つ星ホテルやラグジュアリーレストランの体験も悪くはないが、数度経験すれば期待値が形成され、それを超える感動は得づらくなる。やがて、感情が動かなくなるのだ。
東京に住んだ人が東京タワーというランドマークを経験しないように、「その気になればいつでもできる」と思うと体験は先送りになる。そして先送りされたまま、気づけば何も経験していないまま人生が過ぎていく。経験値を積むうえで本当に必要なのは、お金ではなく「リスクテイク」と「行動力」である。
思い出は「感情の上下」が大事
これは心理学的にも明らかだが、人間の記憶に残るのは「感情が動いた瞬間」である。喜怒哀楽のない日常は、いくら長く続いても、記憶には残らない。
子どもの頃に毎日が輝いて見えるのは、日々の出来事すべてが新鮮で、感情がビビッドに揺れ動いていたからだ。大人になると、何をしても「既視感」がつきまとう。新しいはずの体験ですら、「ああ、これ前にも似たようなことがあった」と思えば、心は動かなくなる。
だからこそ、大人にこそ必要なのは「感情が動く挑戦」である。リスクを取り、未知の世界に飛び込むことによってこそ、人生は再びドラマになる。
経験値は人を惹きつけ、有力者にも評価される
優れた経営者やリーダーたちは、「いくら資産を持っているか」よりも「どんな修羅場をくぐり抜けてきたか」に価値を置く。資産は分け与えることが難しいが、経験から得た知見は、他者にとっての学びとなり、共感を生む。
だからこそ、有力者や影響力のある人物たちが一目置くのは、「お金持ち」よりも「経験値持ち」である。人の心を動かす話をできるのは、数字ではなく、豊富な体験をもって語れる人なのだ。
◇
お金を否定するつもりはない。だが、お金は「何かを実現するための手段」にすぎない。手段があっても、それを「感情の動き」や「思い出」に変える力がなければ、人生は空虚になる。真の勝ち組とは、「経験値を積み、自分だけの物語を持つ者」である。
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