米上院は2日、トランプ大統領が駐バチカン大使に指名したブライアン・バーチ氏(49)の人事を賛成49票、反対44票の賛成多数で承認した。7人の上院議員は投票に参加しなかった。

次期駐バチカン大使のブライアン・バーチ氏、「カトリック・ボート」公式サイトから
バーチ氏はトランプ米大統領の支持団体の保守系非営利政治擁護団体「カトリック・ボート」(Catholic Vote)の会長兼共同設立者だ。同団体はカトリック保守派の主要なオピニオンリーダーであり、2022年には米国のヒスパニック系カトリック教徒を代表するVoto Catolicoも設立している。
バーチ氏は今年4月に逝去したフランシスコ教皇(在位2013~2025年)を批判してきた人物として知られている。カトリック教会が2023年に発表した「フィドゥシア・サプリカンス(Fiducia supplicans)」宣言に強く反対している。同宣言は、同性カップルを含む、教会の教義上結婚が許されていないカップルを神父が祝福することを認めるという内容だ。
同氏はまた、教会の保守派指導者と知られているテキサス州タイラー教区のジョセフ・E・ストリックランド司教がフランシスコ教皇の改革路線を批判したことから解任される動きがみられた時、「教皇の政策は伝統的なカトリックの教えから逸脱している」と主張し、教皇の権威を疑問視する発言をしている。
次期バチカン駐米大使のバーチ氏がどのような政治信条を有しているか読者の皆さんはほぼ理解されただろう。それでは、ワシントンから派遣されるバーチ氏を迎える側の米シカゴ生まれのレオ14世の対応はどうだろうか。
米国人のローマ教皇選出は初めてだ。新しいローマ教皇が選出されると、「アメリカを再び偉大にしよう」(MAGA)と唱える右派は大喜びだったが、その喜びは長く続かなかった。時間の経過と共に、初の米国人教皇が「アメリカ第一主義」支持者ではないことが判明したからだ。
英BBCはトランプ政権1期目で首席戦略官を務めたスティーヴ・バノン氏のコメントを紹介している。曰く「教皇レオ14世とトランプ大統領の間で摩擦が起きる。ホワイトハウスとバチカンの関係が緊張するだろう。そして最終的には米国のカトリック信者が分断される可能性もある」というのだ。
レオ14世は前教皇フランシスコのクローンではない。ペルーで長い間宣教師として歩んできたレオ14世は貧者、弱者への思いが深いという点でアルゼンチン出身のフランシスコ前教皇と類似しているが、相違点も明らかになってきた。
新教皇レオ14世(本名ロバート・フランシス・プレボスト)は人生の半分をアメリカ国外で過ごした。アウグスチノ会時代を経過した後、宣教師としてペルーで24年間暮らし、最初は貧しい農村地帯のチュルカナスで、その後はトルヒーリョで神学校の校長および教会法の教授となり、2015年からはチクラヨの司教として歩んだ。そしてフランシスコ前教皇は2023年、プレボスト司教をバチカンに招き、司教省長官に任命し、その直後枢機卿に任命した。その2年後、プレボスト枢機卿はローマ教皇に選ばれたわけだ。
ところで、新教皇レオ14世はチクラヨ司教時代、ペルーの学校カリキュラムにおける「ジェンダーイデオロギー」に反対し「存在しないジェンダーを助長する」と述べている。2021年には、大衆文化における「同性愛のライフスタイル」と同性家族への共感を批判している。ただし、「フィドゥシア・サプリカンス」宣言については、全面的に支持することも拒否することもしていない。本人としては各国の司教協議会が「文化の違いを考慮し、それぞれの地域の状況に応じて、そのような指示を解釈し適用するべきだ」と述べている。非常にクールな判断だ。
LGBT問題ではレオ14世とバーチ氏ら米保守派との間には大きな違いはない。トランプ大統領の政策と明らかに相違があるのは移民・難民政策だろう。ペルー宣教師だったレオ14世は難民に対しては強制送還などは絶対に受け入れられないテーマだ。その点、前教皇フランシスコと同じだ。
バーチ氏は米上院の承認を受け、喜びを表明し「米国とバチカンの関係の重要性」を強調した。バチカン宮殿の主人となった米国人レオ14世とトランプ大統領の支持者バーチ次期駐バチカン米大使との関係はどうなるだろうか。
ちなみに、バチカンでは世界最強国家・米国の出身者が世界14億人の信者を誇るローマ・カトリック教会の教皇に就任することは久しくタブー・テーマだった。そのタブーは破られたのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年8月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






