スターバックスという文化:6四半期連続の売り上げ減に漂う停滞感

日本ではスターバックスはまだ人気のようですが、北米では明らかに陰りが出てきています。7月末に発表された第一四半期決算は純利益が前年同期で47%減、またそれよりもアメリカ国内では6四半期連続の売り上げ減、全社でも4四半期売り上げ減となっています。

1年前、経営陣を刷新し、チポトレの会長だったブライアン ニコル氏が鳴り物入りでCEOに着任したもののいまだにその成果が見えるどころか、アナリストらの厳しい評価にさらされています。

martinrlee/iStock

シアトルのコーヒー文化には思い出があります。私が80年代後半に会長が取締役会に出席するため、随行秘書として毎月シアトルに来ていました。勤めていたゼネコンのシアトル支店も同じビルあり、また経営していたホテルの日本チームも同じビルにいたので時間ができると建物のロビー階にあるちっぽけな移動型コーヒー屋に行っては駄話をしていました。その店はスタバではなかったのですが、そのスタイルはいわゆるシアトルコーヒー文化の原点であり、そのような店はどのオフィスビルにも存在しました。街にはスタバが増え始めていた頃です。

それから10年間のスタバ文化の展開は凄まじいものがありました。もともとコーヒーの元祖といえばイタリアンコーヒーでした。それに対して昔のアメリカではレストランで給仕が水を注ぐようにマグカップになみなみとコーヒーを何杯でも入れてくれました。薄くてがぶ飲みするアメリカンコーヒーの時代です。ところがスタバは真逆の深煎りで目覚めが良くなりそうな苦みがあり、明白な味の新アメリカンコーヒーを世に送り込んだのです。

この頃からカナダを含めた北米ではスタバのカップを持って通勤するのが一種のおしゃれになったのです。当時、私の知り合いのカナダ人が嘆いた言葉を今でも覚えています。「毎朝、会社に行くとき、まるでルーティーンのようにスタバに行ってコーヒーを買うことを日課にしているんだ。本当に無駄遣いだよね。だけど止められない」と。

私は確か10数年前にスタバがいつかマクドナルドのようになるだろう、とこのブログに記したことがあります。今でもその気持ちは変わりません。その意味合いは廃れることはないけれど、ファッションではなくなるだろうという意味です。4-5年前、マクドナルドのコーヒーが刷新されたとき、安くてうまいと評判だったのですが、爆発的ヒットにはならなかった理由はブランド力と文化を作り出せなかった点だったと思うのです。つまり、マックのロゴ入りコーヒーカップではいくらおいしいコーヒーでもおしゃれに見えないのであります。

私は長年コーヒーショップを経営していたこともあり、近くにあったスタバはライバルでしたが、当時思ったことがあります。それはコーヒーは通勤途上やホテルの宿泊者、観光客が買うのであり、わざわざ車で買いに行くようなディスティネーションビジネスにはならない、よって地元で高評価を得たものが勝つのだろう、と。

私のコーヒーショップもその魂で頑張ったのですが、頑張りすぎて豆を変えたところから調子が悪くなりました。それまでの深煎りのイタリアンコーヒー用豆を使っていたのですが、事情があり、当時流行の兆しがあった浅煎りの繊細なものに変えました。浅煎りなので深煎りのイタリアンコーヒーやスタバのコーヒーのように多少作り方がぶれても味の差が出にくいものと違い、エスプレッソの扱いが難しすぎたのです。そのため、いくら教育してもバイトの子たちのセミオートマシーンから抽出されるコーヒーの味が一定しないという問題を抱えたのです。(特にコンパクションが不一定でした。)最終的にはそのコーヒーショップは売却しましたが、買主は今でも繁盛するコーヒー屋をやっており、嬉しく思います。

スタバはアメリカンカルチャーだと思うのです。それこそマクドナルドと同じぐらい飲食業におけるすさまじい影響力を世に見せつけたと思います。ただ、世界制覇が出来なかったのも事実です。最大の敗北はオーストラリアで完全撤退を余儀なくさせられました。コーヒーの本家、イタリアもダメでした。中国は店舗数では大展開していますが、さらに大きなラッキンコーヒーがあるし、ベトナムは地元大手チェーンが席巻していてスタバはお高いイメージが強すぎます。

私がスタバに興味が無くなったのはフードのクオリティがダメだったからかもしれません。冷凍、半製品がセントラルキッチンから提供されるわけで地元のサンドウィッチ店など作りたてを提供する店にはかなわなかったのです。まずいとは言いませんが、スタバで買う理由はなかったとも言えるのです。

食文化というのは時代の流れをいかにくみ取るか、そしてその流れの先端をどうやって見つけるか、これがチャレンジであり、それを生み出したスタバは素晴らしいと思う一方、流行は永遠ではないのだ、という点も考え合わせなければならないのです。

スタバが潰れるようなことはないでしょう。ただ、地元に居心地の良いコーヒー店があれば私はむしろ新しい店を探してみたいと思うのです。「この店のコーヒー、なかなかうまいんだよね」と言わせる店があればどこでもこだわらないでしょう。そういう意味ではスタバが新たな物語を生み出せるでしょうか?チポトレは文化を作りつつあったと思いますのでニコル氏の手腕をもう少し見てみましょうか。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年8月10日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。