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(前回:外国人労働者政策:広報による国民的合意形成モデルの実装)
本連載でも繰り返し述べてきたように、政府は外国人労働者の受入れ人数について、中長期的な見通しを明示すべきである。
もちろん、政府は業界全体の枠組みにおいて、今後の増加見込みを一定程度公表している。しかし、例えば「農業」や「建設」などの分野において、どの地域に、どれだけの人数を見込むのかという粒度の細かい見通しを、担当省庁ごとに算出・公表する必要がある。農業であれば、農林水産業が前提となるが、水産加工や酪農など、分野ごとの精査が不可欠だ。
さらに、すべての国政政党にも検討を促し、それぞれの意見を一覧性をもって公開する広報体制を整えるべきだという点については、前回の記事で詳述した。
この手法は、情報公開のタイミングにより、先行して公表する政府にとっては不利となり、後出しが可能な野党政党にとっては有利となる。しかし、日本最大のシンクタンクとも言える省庁が、裏付けある情報をもとに算出できるという点で、政府には大きな優位性がある。
こうした情報をもとに国会で議論を重ねたうえで、私は中長期的な業界別の外国人労働者受入れ人数について、一定のバッファを設けたうえで上限規制を導入すべきだと考える。
数的規制と「受け入れる覚悟」について
「我々は労働力を求めたが、やってきたのは人だった」 この言葉は、50年前の作家マックス・フリッシュによるものであり、欧州諸国では今なお嘆きとともに引用され続けている。
本連載でも再三述べている通り、外国人労働者の受入れとは、彼らの生活や文化を受け入れることと同義である。仕事を求めて来日する外国人には住まいが必要であり、家族には社会的適応が求められ、子どもたちには日本人と同水準の教育や支援が不可欠となる。また、送出国の政治的・文化的・宗教的背景によって、受入れ体制の構築方法や行政負担は大きく異なる。
例えばイスラム圏からの受入れであれば、ハラル対応、礼拝の配慮、男女の服装や役割の違いに関する地域住民の理解等が求められる。政情が不安定な国からの受入れでは、万一の事態に備えた難民対応の検討も必要となるだろう。現在、こうした受入れ体制の構築は、最終的には市町村などの基礎自治体が担うことになっている。
このような前提に立てば、受入れ規模は公的サービス提供の予算規模を左右する要因となり、外国人労働力を受け入れる自治体との綿密な協力体制の構築が、政府に最低限求められることになる。
本来、こうした社会的体制の構築には長い年月を要するはずだが、昨今の人口流入はその前提を凌駕している。外国人材の流入が自治体のキャパシティを超えたとき、その影響は必ず日本全体に及ぶ。
そして、今後の原稿で詳述する予定だが、一部の自治体では、すでに「キャパシティを超えた状態」にあると断言できる。
国家事業としての責任
このような混乱を最小限に抑えるためにも、政府は「数の規制行政」の体制構築を急ぐべきである。
私たちが計画する外国人労働者受入れ政策は、言うまでもなく、しっかりとした中長期計画に基づく国家事業でなければならない。そのことを、現在のヨーロッパの混乱が如実に示している。本件に関しては、「数の規制行政」は不可欠であると、私は強く確信している。
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