接待って何?:減税と叫ぶ政治家の一方で高級店で旨いものを食べ続ける経営者

先日、バンクーバーのある高名なソーシャルクラブのスピーカーズ ランチ(ランチを食べながらゲストのスピーチを聞くプログラム)に招待されました。集まった人、約20数名。各々が、一通りの挨拶をすると椅子に座り、目の前にあるトレーからサンドウィッチを2つぐらいつまみ隣の人に渡します。その間に給仕が「スープはいかが?」と配ってくれるだけ。スピーカーは皆がバラバラと勝手に食べている間にそそくさとトークを開始します。当然ながら聞く人はむしゃむしゃしながらその話を聞き、その間にコーヒーが提供されるという仕組みでした。ある意味、もっとも著名なソーシャルクラブのランチがここまで簡素、かつ、参加者が人の目も気にせず食事を開始しているのには「北米らしい」と思いました。

スピーカーの話が終わるとディスカッションの時間で参加者がスピーカーの話題について各々が意見を述べます。1時間半できっちり終わり、皆さん、あっという間に会場から消え去ります。

ではこのランチ、何なのか、といえば20数年間、毎週決まった日に続いている会合で来たい人が勝手に来て勝手に話を聞いて帰る、という極めて緩い規律の中で運営されています。参加者は驚くほど高位、ないし社会的ステータスの高い人ばかり。そのような方々がこれほど簡素なランチに来るというのは日本ではありえない話だと思います。

以前加入していた当地の商工会議所のランチ会でも席に着けばサラダは既に盛り付けられ、各自は自己紹介をしたらさっさとサラダを食べ、そのうちメインの料理が廻ってくる、その間、スピーカーがしゃべり出し、コーヒーを飲みながら聞くというはたぶん、こちらの基本パタン。そしてそれらの飯は旨いか、と言われればたぶん日本のコンビニ飯の方がベターな気がします。

ふと思うのは日本のグルメぶりは尋常ではないな、という点です。もちろん批判などしていません。素晴らしいし、外国人も大喜びなのですが、案外、接待費という会社の経費が支える業種でもあるのかな、と思います。

企業が接待費に使えるのは税務上、一人1万円まで。また1万円を超える場合、企業サイズにより年間の金額上限があり、資本金1億円以下なら年間800万円か接待費総額の50%までの選択制になっています。

私の管理する日本の会社は6月決算。数週間前に決算書を会計士に送ったのですが、わが社の接待費はゼロ円。つまり一年間に1円も接待費がありませんでした。私の記憶が正しければこの10年間で全部で10万円も計上していないと思います。お茶代や喫茶代、会議費すらありません。1つには私が接待嫌いなのと別に食べたいものぐらい自分で払うからであります。

ゼネコンに入社した時、社内接待費の使い方の荒さに目を丸くしたことがあります。ところが不思議なもので入社2-3年すればそれが当たり前になります。「今日は寿司にしますか?」「寒くなったのでフグちりもいいですね」といった具合です。極めつけは開発事業本部に在籍していた際、私が本社の宅建取引主任登録者になっていたのですが、暇つぶしに業者間の不動産売買の「取り持ち」をやっていたら成約してしまったことがあります。上司からは普段「そんなことは街の不動産屋のやることだから手を出すな」と言われていたので恐る恐る上司に報告したところ、「お前はその取引でどんなコストをかけたのか?」と聞かれたので「社内の電話数回とファックスぐらい」というと突如、部員全員を集め、「今日から会社の決算日まで部内飲み食べ放題。つけは全部、こいつに回せ!」と。上司曰く、「会社にそんな多額の利益を献上したらもったいないだろう」と言うわけです。その後部内で飲み食いした費用は2000万円を超えていました。

Tadahisa Sakashita/iStock

秘書時代はもっと過激な交際費の使い方でその頃に私の気持ちはすっかり変わってしまったのです。接待費はバカバカしいと。

北米では接待は基本的にはさほど多いわけではありません。いわゆる顧客を対象にしたコーポレートイベントはありますが、日本でよくお見掛けするような高級店でスーツ族が赤ワインをくるくる回すようなシーンはほとんどお見掛けしません。トロントやニューヨークになると若干多いとは聞きますが、基本的に夜はさっさと帰りたい人が多いし、日本のようなバカ飲みをする人もいません。

では接待されると何があるのか、というと高い請求書が来ると考えています。担当者同士の阿吽の呼吸ができるので「メロンです、請求書です。」のような話になりやすいのです。私はビジネスに対する姿勢がかなり厳しく取引相手とガチンコ勝負したいので弱みは握られたくないのです。

一方、家族接待というのは日本の零細企業、ファミリー企業にはよくあることです。上述の交際費の枠組みがあればそれこそ毎日旨いものを食べ続けても全額交際費処理することが可能です。言い換えれば「税務署にお金取られるならおいしいもの食べて利益減らした方がいいよね」となるのは当然の判断とも言えます。私の日本の知り合いで365日、ほぼ外食という強者もいます。

私から見れば日本の交際費の考え方は極めて緩い税金控除の一種だと思うのです。政治家が減税と叫んでいる一方で一部の経営者たちは高級店で旨いものを食べ続けている、そしてそれがビジネスにはほぼ関係ないレベルにあるという点は考えるべき点でしょう。

ビジネスをするのに接待が必要だ、と考えるのは少しずつ変わってきていると思います。お客様をきちんとおもてなしすることと高級なものを食べさせるのは別です。確かに接待されることに慣れている人からすれば目も口も肥えてくるので「あんな安い店に連れて行きやがって」と文句すらいう人をしばしば見かけます。それならば初めっから接待など提供しない方がましだと私は思うのです。

多分、接待文化は緩やかながらも変わってくると思います。企業もいくら税務上の接待費枠があるとしてもそれを使うことを黙認する時代ではないし、そんな経営では勝ち抜けないことぐらいわかっていると思います。つまり税務当局の方がむしろ時代錯誤なのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年8月11日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。