
The White Houseより
アラスカでのトランプvsプーチン会談(15日)と、ホワイトハウスでのゼレンスキーを含めたトランプvs欧州首脳会談(18日)を受けて20日の『時事通信』は、「ロシア、協議「堂々巡り」画策か 停戦・制裁うやむやで外交勝利」との見出し記事で、「プーチン大統領の『外交勝利』という印象が強い」と書いた。が、筆者はそうは思わない。以下にその理由を書く。
先に結論を述べれば、ロシアには使えない「核使用の脅し」くらいしかカードがいないのに比べ、トランプと欧州には、切りつつあるものも含めていくつものカードが残っているからだ。
そもそもプーチンがウクライナに侵攻した目的の第一は、ウクライナをNATOに加盟させないことだった。「加盟国に対する武力攻撃を、加盟国全てに対する武力攻撃と見做す」との規定を第5条にもつNATOに加盟させないため、紛れもない武力攻撃を「特別軍事作戦」なる珍語を用いて仕掛け、ウクライナをNATO加盟から遠ざけたのである。
が、ロシアは100万人の死傷者・数十億ドル規模の装備喪失・西側諸国からの制裁に苦しみ、当初の電撃侵攻で奪取したウクライナ領土の20%以上の戦果を挙げられていないのが3年半後の今の状況だ。それどころか、スウェーデンとフィンランドが新たに加わったNATOは6月、トランプの求めに応じ国防費・同関係費のGDP比5%への引き上げを決めた。加盟はさせずともウクライナを支援するNATOの基盤は、侵攻前よりむしろ強化されつつあるのだ。
だのにロシアのラブロフ外相は21日、「我々はどのような形式(の直接協議)にも応じる用意があるが、首脳レベルとなれば、あらゆる段階で徹底的に準備する必要がある」と述べ、トランプが調整に着手したと表明しているロシア・ウクライナ首脳会談につき、早期の実現に懐疑的な見方を示した。
ラブロフ氏はまた、ロシアの将来の侵攻を防ぐため欧州諸国(=NATO)がウクライナへの平和維持部隊の展開を計画する「安全の保証」に言及し、重要な問題を「ロシア抜き」で議論すべきでなく、ロシアや中国も関与させるよう注文を付けた(金正恩には気の毒だが、北朝鮮には言及がなかったようだ)。
が、筆者には、この件で中国が、ロシアに何処まで肩入れするか疑問がある。中国にとって今のロシアは「石油や天然ガスを安く買えること」以外の魅力がある相手とは思えないからだ。「中国製品の市場」や「人民元経済圏」としてなら、ロシアよりもむしろアフリカや中南米諸国の方が魅力的だろうし、何よりも今は米国との関税交渉を少しでも有利に運ぶことが優先するはずだ。
ルビオ米国務長官は17日、「ここで合意に達することができなければ、何らかの結果に繋がる。・・戦争が続くだけでなく、全ての制裁が続く結果、そして新たな制裁の可能性もある」と米NBCに語った。「新たな制裁」の目玉がロシア原油を買い続けているインドと中国への二次制裁を指すのは明らかだ。
ベッセント米財務長官も19日、「(ロシアとウクライナの)双方が恐ろしい衝突を終わらせる用意がある」と分析し、「プーチン・ロシア大統領が終結を望む理由の一つは、経済的な側面だ」とCNBCテレビのインタビューで、強調した。ロシア経済にとって一番痛いのは。トランプの「Drill, baby, drill!」による原油価格の下落である。
頼りになるルビオとベッセントという「露払い」と「太刀持ち」を従えて土俵に上がったトランプは21日、「Truth Social」にこう書き込んだ。
侵略国の領土を攻撃せずに戦争に勝つことは、ほぼ不可能に近い。それは、スポーツで素晴らしい守備力を持つチームが、攻撃を許されない状況に似ている。勝利のチャンスはありません!ウクライナとロシアの関係も同様です。不正で著しく無能なジョー・バイデンは、ウクライナが反撃するのを許さず、ただ防御させるだけでした。その結果はどうなったでしょうか?いずれにせよ、私が大統領であれば、この戦争は絶対に起こらなかったでしょう——ゼロの確率です。興味深い時代が待っています!!!大統領DJT
トランプは大統領選に勝った2024年12月、ウクライナがロシアの施設を攻撃するために米国の長距離ミサイルを使用することを許可したバイデンを「愚か」だと厳しく批判し、「私が大統領に就任する数週間前に、そんなことを許すべきではなかった。私の意見も聞かずに、なぜそんなことをしたのか?」などと述べた。
が、今回の書き込みを読めば、当時のバイデン批判が、「ウクライナによる米国製長距離ミサイルを使ったロシア国内への攻撃」そのものではなく、こうした決定を臨終の床にあるバイデンがしたことへのものだったと判る。ならば書き込みは、ウクライナへの長距離ミサイル供与の示唆であろう。
以上縷説したように、本稿執筆時点(8月22日15時)では、この戦争が長引いて困るのはウクライナではなく圧倒的にロシアである。狡賢いプーチンは目下、年貢をいつどのように納めるかを探っているに違いない。






