ロシアと同盟国ベラルーシで12日、両国の軍合同軍事演習「ザーパド2025」が始まった。演習は9月16日まで実施される。公式情報によると、演習は両国に加え、バルト海とバレンツ海でも実施される。この期間中、戦術核兵器や新型の極超音速中距離弾道ミサイル「オレシニク」の運用に関する訓練が実施される。

対独戦勝80年記念軍事パレード 2025年5月9日 クレムリン公式サイトから
ロシア軍とベラルーシ軍の共同演習に対し、ロシアに隣接するポーランドやバルト3国は「ロシアは次は我々を侵攻するのではないか」という懸念を有している。少なくと過去3回、ロシアとベラルーシ両国の軍事演習直後、ロシア軍は他国に軍事侵攻をした‘前科‘があるからだ。
①ジョージア侵攻
ジョージア軍が2008年8月7日夜、南オセチアに地上部隊を投入したことを受けて、ロシアは、ジョージア国内の親ロシア派勢力が支配する南オセチア地域で separatism(分離独立)を支援し、南オセチアにロシア系住民の保護を名目に軍事介入し、ジョージアの広範囲な地域を占領した。フランスの調停で停戦合意が実現したが、ロシアは紛争地域の南オセチアとアブハジアの独立を一方的に承認した。
ロシア軍は2008年7月、ジョージア侵攻(ロシア・ジョージア戦争)の直前、ベラルーシ軍と軍事演習「ザパド・インド=2008」(西方2008)を実施した。演習の目的は部隊の連携能力の向上などとされていた。
②クリミア半島侵攻
ロシアは2014年2月20日にクリミア半島への武力侵攻を開始した。侵攻直前には、ロシアとベラルーシの間で大規模な軍事演習が実施された。 ロシアは、この演習の理由をNATOの東方拡大に対する脅威認識だとした。
③ウクライナ侵攻
ロシア軍はその直前、ベラルーシと合同軍事演習を行った。この演習は2月中旬に本格的に開始され、ベラルーシの特殊部隊やロシア軍の空挺部隊などが参加し、ウクライナ国境付近での偵察や戦闘訓練が行われた。ロシア軍は、ベラルーシの領土を一部利用して、ウクライナへの侵攻準備を進めていたと考えられている。
(上記の3件ともロシアは他国侵攻の直前、ベラルーシ軍と軍事演習していることが分かる)。
そして 2025年9月12日、ロシアとベラルーシ両国の合同軍事演習「ザーパド(西)2025」が始まったわけだ。ポーランドやリトアニアなど、隣接する北大西洋条約機構(NATO)加盟国をけん制する狙いがあると受け取られている。
ロシア(旧ソ連)から支配された苦い経験のあるバルト3国やポーランドが「ロシアはウクライナ侵略後、我々に軍事侵攻するのではないか」と懸念するのは決して過剰反応とはいえないのだ。
ポーランドで9日夜から10日にかけ、ロシアから複数の無人機がポーランド領空を侵犯し、NATO戦闘機が無人機を打ち落とす、といった事態が生じたばかりだ。ポーランドのトゥスク首相は10日、「ロシアの大規模な挑発だ」とし、NATO条約第4条に基づき協議を要請した。同条項は、NATO加盟国が外的脅威にさらされていると判断した場合、同盟国と協議することを規定している。ポーランドは「国家安全保障を確保する」ため、12月初旬まで東部国境沿いの航空交通を制限し、ラトビアもベラルーシおよびロシアとの東部国境沿いの空域を1週間閉鎖する措置を取ったばかりだ。
ローマの歴史家クルチュウス=ルーフスは「歴史は繰り返す」と述べたというが、過去3度あったことならば、4度目もあると考えて大きな間違いがないだろう。繰り返すが、プーチン大統領は過去、他国侵攻の前には必ず予行練習(軍事演習)を行っているのだ。あたかも、スポーツ選手のウオーミングアップのようにだ。プーチン氏が拘る「戦(いくさ)の公式」と呼ぶことができる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






