国政選挙の惨敗が続き、少数与党に転落した自民党は「解党的出直し」を掲げて総裁選に臨み、5人の候補者が名乗りを上げています。候補者の政権構想の発表はこれからにしても、「解党的出直し」らしき動きは見られません。やはりスローガンだけなのでしょうか。
メディアの主張も内向な政策課題を提示しているにすぎません。日経新聞社説は「責任政党の名に恥じぬ政策論争を」の見出しで指摘したテーマは物価高対策、財政規律と社会保障の一体改革、医療費の抑制などです。
小泉進次郎氏と高市早苗氏 両氏SNSより
読売社説は「党の再生を図る論戦にしたい」の見出しで、「自民党は国民政党として生き残れるかどうかの瀬戸際に立たされている」とポイントはついています。その各論では、「安定した挙党体制の構築」、「連立政権の拡大を視野に、どのように野党と協力体制を築くか」の課題を指摘しています。どうも内向きの問題提起です。
「解党的出直し」のはずなのに、日経も読売も目先の国内的な政策課題を列挙するにとどまっています。世界も日本も歴史転換期に来ているのですから、メディアはもっと大きな視野に立って、政策の方向性を提言するようでなければなりません。
トランプ米大統領が乱発している乱暴で粗雑な政策の数々に対して、「いずれ失敗する。高関税政策もインフレを招き、失敗する」という指摘を聞かない日はありません。トランプ氏の政策、言動の多くは間違っているのでしょう。それがはっきりする日も来るに違いありません。
トランプ氏は多くの間違いを重ねています。トランプ氏を論じる視点は、その間違いを指摘するにとどまってはいけない。トランプ氏はその間違いを通じて、何か真実を語っているという視点が必要だと思います。
これまでの世界は終わった
そのいくつかを挙げると、「これまでの世界は終わり、新しい世界に転換していく」、「新自由主義とグローバリゼーションという半世紀以上、続いた
経済原理が格差拡大、社会の分裂など多くの矛盾を生みだし、限界に来ている」、「新冷戦の始まりというより、世界は複数の極からなり立ち、様々な地域連合が生まれ始めており、その協力関係が問われている」などの指摘が聞かれます。
資本主義のあり方に「ついても、新自由主義の時代は終わり、中国の国家主導型経済の膨張をみて、トランプ氏の米国も国家主導型経済への転換が始まった」、「日本の対米投資80兆円も米側が一方的に投資対象を選び、民主導型でなく国家主導型を強制される」ということでしょう。
日本経済の空洞化
その結果、企業としても、低迷する日本市場より、米国のような海外市場を選択する時代にますます向かっていくのでしょう。主要企業が海外市場に顔を向ける結果、日本経済の空洞化が進むかもしれません。空洞化がすすめば、税収も減り、「税と社会保障の一体改革」をしようにも、その基盤が失われることになります。
そういう歴史的転換期にきているのに、新聞メディアが報道する総裁選動向は「麻生・岸田氏の動向注目。候補者は相次ぎ『詣で』。国会議員票に影響力」、「次期政権を待つ重い責務。インフレ、金利上昇、防衛力強化」、「積極財政か規律配慮か」などの内向きの動きばかりです。
政策構想が先行しない愚
政策構想より、各候補者は「この指とまれ」の数合わせに懸命です。政策構想が先にあって、賛同する議員が集まってくるということではありません。野党との連携拡大は不可避としても、政策構想の共有は後まわしで、「誰と誰の関係がいいから、自公+維新の可能性が高い」とか、人間関係の良し悪しで連立拡大が決まっていく。
そうした情報が溢れているのは、政治ジャーナリズムの意識のレベルが内向きで永田町(政界)情報、つまり政界の舞台裏情報を早く入手するかが政治記者の評価基準になっているからでしょう。およそ世界の動き、日本の外の動きの問題は後まわしにされている。
「いかにして 米国依存を減らしていくか」、「既存の国際経済秩序は金属疲労を起こしている」、「トランプ氏の政策は失敗する。その失敗はこれまでの国際経済秩序の崩壊を意味する」、「そういう歴史的転換期における日本の立ち位置を見極める」などの議論を総裁選で聞きたいものです。
編集部より:この記事は中村仁氏のnote (2025年9月19日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。