自民党総裁選で本命とみられる小泉進次郎氏の記者会見は中身がなく、評判は「ずっと原稿を読んでいる」とか「カンペのページが見当たらなくて返事に詰まる」とか散々だが、彼が決選投票に残ることは確実だ。
もう一人は高市早苗氏か林芳正氏だろうが、林氏は「石破政権の継承」を前面に出して何も新しい政策を打ち出さないので、党員票は取れないだろう。決選投票では小泉氏が有利なので、彼が総裁になる公算が大きい。
郵政民営化は「余計な改革」だった
これは2001年の小泉純一郎首相を思わせるが、当時は党員票の比重が大きく、小泉氏は本命とされた橋本龍太郎氏に圧勝した。その公約は郵政民営化だったが、これは政策としてはほとんど意味がなかった。
かつて郵便局の集めた貯金は大蔵省の資金運用部が財政投融資計画で特殊法人に配分し、これが「裏の国家予算」として田中派の貯金箱になっていた。これを民営化して財投をつぶすことが小泉氏の宿願だったが、財投は赤字が大きいので大蔵省も縮小し、2001年4月に資金運用部は廃止された。小泉氏が首相になったとき、その標的だった財投はなくなったのだ。
だが小泉首相は郵政以外の政策はほとんど知らなかったので、経済政策を竹中平蔵経済財政担当相に丸投げした。竹中氏も金融は専門ではなかったが、竹中チームが強硬なハードランディング路線を打ち出し、不良債権の清算が一挙に進んだ。これを好感して2002年8月にバブル後最低を記録した株価は上昇に転じ、景気は急速に回復した。
2005年に郵政民営化法が閣議決定されたとき金融部門の改革は終わっており、郵便事業などを民営化するのは余計な改革だった。しかし小泉首相は「民間にできる仕事は民間へ」という路線を打ち出して解散・総選挙を強行し、圧勝した。
【独自】小泉進次郎農水大臣「2030年までに平均賃金100万円増」 自民党総裁選の公約が判明
ちなみに日本を貧しくさせて氷河期世代を作ったのが進次郎パパね pic.twitter.com/80mfmB6T5u
— こうこう (@kohtown1) September 19, 2025
かつての不良債権清算に相当するのは社会保障改革
こう比較すると父親も政策に疎いのは同じで、総裁選で掲げた公約も無意味だった。小泉純一郎政権が大成功したのは、当時の政治家がこわがって手をつけなかった不良債権の清算という最大の懸案を解決したからだ。それを催促したのは、暴落する株式市場だった。
だから進次郎氏の公約に中身がないことは大した問題ではなく、彼がどんな布陣で政権を運営するかが重要だ。選対本部長が加藤勝信氏なので財務省との連携は十分だろうが、父親のとき最大の問題だった不良債権にいま相当するのは、明らかに社会保障改革である。
進次郎氏がこれに着手するかどうかが、政権の命運をわけるだろう。まず臨時国会で過半数を得るには野党との連立(あるいは政策合意)が避けられない。その有力候補とされる維新は社会保障改革を掲げており、これに何もふれないで連立はできない。
改革の入口は最低保障年金と税額控除
どう改革するか。これについては河野太郎氏などが提唱している最低保障年金(基礎年金の税財源化)が入口になるだろう。この財源としては消費税の増税が必要だが、いま与野党で協議している給付つき税額控除と組み合わせれば財政中立にできる。
進次郎氏と父親の置かれた状況は似ている。日本経済の最大の懸案はわかっているが、政治家がみんなこわがって手をつけない。そんなときに無関係な公約で当選した首相が、株価(今回は債券市場)に迫られて宿題に手をつける。
首相が社会保障改革をやるといえば、正面切って反対する政治家はいないだろう。みんな「部屋の中の象」がいることは知っているが、見て見ぬふりをしているだけだ。反対が多かったら「いま社会保障改革をやらないと日本経済は終わる」と訴えて解散・総選挙をすればいい。それに勝てば、父親と同じく歴史に残る首相になるだろう。







