ニューヨークの国連本部で22日、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」を目標とする首脳会合(フランスとサウジアラビア共催)が開かれた。英国、仏などがパレスチナの国家承認を宣言し、パレスチナを承認する国は国連加盟193カ国の約8割となった。

パレスチナの国家承認を表明する英国のスターマー首相、2025年9月21日、英首相府公式サイトから
ところで、イスラエル軍のガザ戦闘が続いている中、外部からパレスチナの「国家承認」を認めることは、問題の解決にならないばかりか、戦闘を激化、拡散する危険性すら出てくる。
先ず、国家の主要条件は、①領土、②国民、③主権の3つだ。それに④国際社会の承認を加えるならば、現在のパレスチナは④以外の他の3つの「国家の条件」を備えていない。
英国やフランスは、「パレスチナの国家承認を実行することで、イスラエルとパレスチナの2国家共存は促進できる」と主張。マクロン仏大統領は国家承認が「唯一平和を可能にする解決策」と指摘する。そして、パレスチナの国家承認を表明する他の国々も「2国家解決の実現」と、将来的な「イスラエルとパレスチナ国家の平和共存」への期待を強調した。
フランスと共にニューヨークの首脳会合の主催国、サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハン外相は「ネタニヤフ首相率いるイスラエル政府が攻撃的な行為を続け、安定と地域および国際平和を脅かしている」と述べた。サウジアラビアはパレスチナ人の保護者を自負している。同国はパレスチナ人への人道支援の最も重要なドナー国だ。サウジは1988年11月にパレスチナ国家を承認している。
繰り返すが、パレスチナは依然、独立した主権国家ではない。「2国家共存」はパレスチナが主権国家の条件を成就した後、初めて問われる課題だ。主権国家イスラエルと国家でもないパレスチナがどうして「2国家共存」を実現できるか。「2国家共存」を実現するために国家承認するということは可笑しい。
日本は米国と同様にパレスチナの国家承認に躊躇しているが、その理由は「パレスチナの国家承認は目標だが、まだそのプロセス中だ。この時期に国家承認することは相手側(イスラエル)に強い反発を誘発する危険性が出てくる」という。正論だ。
英仏などがパレスチナの国家承認を急ぐのは、パレスチナ自治区ガザでの人道的危機という現状があるからだ。イスラエル軍の攻撃から避難するパレスチナ人の人道的悲劇が連日、報道されている。パレスチナ人の悲劇を直視できない西側諸国は、「パレスチナの国家承認」をリンクさせてイスラエル側に政治的圧力を行使しているわけだ。ただし、パレスチナ人の悲惨な状況とパレスチナの国家承認とは本来、別問題だ。
イスラエル側は「パレスチナの国家承認をすれば、イスラム過激テロ組織『ハマス』の2023年10月7日のイスラエルへの奇襲テロに褒美を与えることを意味する」と警告する。ハマスの奇襲テロで、イスラエル側には1200人以上の死者、250人の人質が出た。イスラエル側はハマスが実質的に管理するパレスチナ自治区ガザに報復攻撃を始めた。その結果、ガザ区の80%は破壊され、パレスチナ側の発表によると、6万5000人の犠牲者が出ている。
パレスチナの国家承認について、ネタニヤフ首相は「明確なメッセージがある。ヨルダン川西岸にパレスチナ国家は絶対に樹立されないことだ」と表明し、占領下のヨルダン川西岸における入植地建設を引き続き強化していく方針を明らかにしている。
国家承認は「各国の意思表示」という象徴的側面が強く、パレスチナの独立に結び付くものではないが、国連加盟国(193カ国)の約80%がパレスチナを承認しており、イスラエルは国際社会では益々劣勢に立たされる。特に、国連安全保障理事会の常任理事国では、英国とフランス2国が国家承認側に回ったことで、イスラエルを支持する国は米国だけとなった。
イスラエルは、パレスチナの自決権を認めつつ、国家樹立の条件が整っていないと主張し、治安管理を続けたい意向だろうが、国際社会の圧力が更に高まることは必至だ。時期尚早のパレスチナの国家承認は中東を一層、混乱させることが予想される。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






