【自民党総裁選】リーダー人事評価①「茂木としみつ」

西村 健

自民党総裁選挙。終わりの始まりなのか、再生なのか、問われている。筆者は長年、政策評価や人事評価の専門家として「政治家の人事評価」などを提起してきた。今回から自民総裁選で「リーダー人事評価」を考えていきたい。

第1回目は、茂木さん。1955年10月7日生まれの69歳。栃木県足利市出身。足利市立北郷小学校月谷分校、足利市立北郷小学校、北郷中学校、県立足利高校を卒業。東京大学経済学部卒業。丸紅入社、ハーバード大学ケネディ行政大学院をへて、読売新聞社勤務後、1983年~1991年、マッキンゼーで勤務(HP経歴)。平成維新の会事務局長に就任し、1993年、第40回衆議院議員総選挙に日本新党公認で旧栃木2区から出馬し当選。その後、1995年に自民党に入党。11期連続当選。自民党の政務調査会長・幹事長、IT・沖縄北方担当大臣、経済産業大臣、経済財政政策担当大臣、外務大臣などなどの要職を歴任する「大物議員」だ。

この方は自民党総裁、いや日本の首相としてどうなのか? 有能な抜群の切れ者はいろいろなことを実行し、世界のリーダーとも丁々発止で交渉できる新時代のリーダーになれる可能性を持っている。

世間での「評価」と「偏見」

茂木敏充さんの世間の評価は、政策通・実務型として党内で一定の信頼を得ている一方、知名度や人気面では課題が指摘されている。過去の言動や官僚への厳しい対応、庶民感覚とのズレなどに対する批判や不信感も根強い状況である。

質問に即座に回答、知識が豊富で知能が高く、タフな交渉などもいとわない点は評価が高い。カメラアイとも言われる視野に入った対象を瞬時に覚える「映像記憶」能力を持つとされている。

しかし、優秀さえゆえに他人に厳しい、そのため人望がやや弱い(そうだ)。官僚への厳しい指導やパワハラ疑惑、過去の振る舞い(歯ブラシ女性職員エピソード、記者への接触行為)などについても批判もあるので部下は大変かもしれない。

茂木敏充さんの口癖としてよく言及されるのは「成功の反対語はやらないこと」など、現実的かつ実務面を重視した思考のようだ。

「リーダー人事評価」

筆者は人事評価の専門家として各階層の求められる能力と行動特性を研究している。以下が基本的にはリーダーシップの評価の評価軸である。

筆者作成

総理大臣の采配は他のマネジメントとは形態が変わってくるので、これをもとに、昨年、以下のような評価視点を提示し、各候補を評価した(あくまで筆者による自己評価なのでご注意ください!)。

石破さんや小泉さんなど他の方と違って一度しかあったことがないため、茂木さんについては彼を知る人からの意見を踏まえてはいるものの、詳しく向き合っているわけではないので注意いただきたい。

筆者作成

今回、さらに「リーダーのコンピテンシー」を掘り下げよう。このコンピテンシーの中でも本当の意味で日本の首相に必要なのは、「部下を的確に指示命令ができる」こと、「信頼を持たれる言動・行動ができる」こと、「場面に応じて、的確な判断ができる」ことであり、そのことの重要度が高い。この3つをさらに分解・ブレークダウンすると・・・

①「部下に的確に指示命令ができるためには

  •  幹部や部下の能力やスキルや強みを理解している
  •  目標達成のためのイメージ、命令の意義や意味を部下に納得行くように伝えることができる

②「信頼を持たれる言動・行動ができる」ためには

  •  自分が絶対に正しいと思っていなく、自分を客観視できる
  •  周りへの配慮や優しさや愛情がある
  •  自分が誤った場合には(周囲に)素直に言える、謝罪できる
  •  部下が「この人のためなら」と思えるだけの人間性や人柄を持っている
  •  言動と行動が一致している
  •  物事に動じず、泰然自若している、厳しい時に逆に周りを鼓舞する

③「場面に応じて、的確な判断ができる」ためには

  •  状況を正しく、偏りなく、大事なポイントを理解できる
  •  官僚や周囲が出してくる内容に対して一貫性のある判断基準を持っている
  •  多くの立場・視点から総合的に客観的にみることができる
  •  物事が進まないときにも、できる限り冷静にいて、問題解決策を探れる

さらにこれらの「条件」をさらに深い根底の階層にブレークダウンすると、

④ 基盤レベルとして

  •  首相として何を成し遂げるのかの思い、使命、情熱がある
  •  有力な利害関係者や一部の関係者のためではなく、全体的かつ歴史的視点を踏まえて行動すべきだと考えている
  •  主権者である国民への寄り添え、奉仕する意欲を持つ

といったところになる。

こうした「リーダー人事評価」をしてみると、茂木さんはかなり合理的な判断ができるリーダーだということがわかるだろう。

推察すると

  •  周りへの配慮や優しさや愛情がある
  •  部下が「この人のためなら」と思えるだけの人間性や人柄を持っている
  •  主権者である国民に対して寄り添え、誠実で、奉仕する意欲を持つ

と言った点が課題だろう。

努力家で周りに認められる超絶優秀な人物である。しかも、自身の努力で頑張ってきた、たたき上げである。逆にエリートとしての自負が強すぎるので、常に相手の立場にたち、本来持っている優しさを伝えていくことでさらに成長できるかもしれない。

茂木さんへの期待

首相には多くの部下がいて、リソースも可能な限り利用できるし(官邸機密費などお金もかなりある)。プレゼンテーションもあくまで国民に対してのもので、そんなに求められるわけではない。国民を熱狂させる、誠実に国民に説明する、と言うリーダーの条件は1つの個性に過ぎない。目標管理は部下がやってくれるので、「指示命令」「信頼」「判断・選択」が大事になる。

よくプレゼンがうまい、言葉が巧みな政治家が一般国民から評価されるものだが、安倍さんだってプロンプターを見ていたし、質問に対してもはぐらかしたりもしていた。厳しい質問に誠実に答えていないときもあった。また、過去の官僚上がりの総理はいわゆる「東大話法」のようなものを使っていた。

つまり、完全無欠のリーダーである必要はない。個性を生かして自分なりのやり方でリーダーシップをとればいい。

茂木さんは「私の目指す新しい政権の姿は、目標を掲げ、チームを束ね、結果を出す。改革マインドと結果を出せるベストチームをつくって、成長と改革の結果にコミットする」と昨年度は語った。今回は、「結果を出す」「ドン底を立て直し、次世代へバトンを渡す」「改革マインドと結果を出せるベストチームをつくる」と決意を述べている。

激動の今、政治家は主権者である「国民に奉仕できるか」でこそ問われる。茂木さんに期待したい。

【関連記事】