【自民党総裁選】リーダー人事評価④「高市早苗」

西村 健

どうなる自民党総裁選挙。筆者は長年、政策評価や人事評価の専門家として「政治家の人事評価」などを提起してきたが、首相としての「リーダー人事評価」を考えていきたい。第4回目は、高市さん。

1961年(昭和36年)3月7日生まれ、血液型A型。父親は自動車会社勤務、母親は奈良県警勤務の共働きで弟がいる。奈良市立あやめ池小学校、橿原市畝傍南小学校、橿原市立畝傍中学校、県立畝傍高校卒業、神戸大学経営学部経営学科卒業(経営数学専攻)。大学時代には軽音楽部などで活動したり、バイクを乗り回したりしたそう。

卒業後、(財)松下政経塾に入塾。卒塾後、渡米。フェミニストとして有名なパトリシア・シュローダー(アメリカ民主党連邦下院議員)のもとで活動した。米国連邦議会Congressional Fellow(金融・ビジネス)。その後、帰国して、テレビキャスターとして活躍。

1992年参議院議員選挙に無所属で出馬し落選。その後、1993年、衆議院議員総選挙に奈良県全県区から出馬し、当選。自由党、新進党などを経て自民党入り。通商産業政務次官。経済産業副大臣、内閣府特命担当大臣、総務大臣、内閣府特命担当大臣(知的財産戦略・科学技術政策・宇宙政策・経済安全保障)、経済安全保障担当大臣というキャリアを誇る。

この方は自民党総裁、いや日本の首相としてどうなのか? 幅広く深い知見をもとに、断固とした信念で、日本女性初のリーダーとしての可能性を持っている。

世間での「評価」と「偏見」

世間では、「頼れる」と言われる一方、「偉そう」「上から目線」といった批判的な評価も多い。断定的な物言いや強気な態度が見られ(切り取られ)、男性、特に政治的信条に賛同しない人はそう受け取る人が多いようだ。

「奈良の鹿を足で蹴り上げる外国人がいる。日本人が大切にしているものを痛めつけようとする人がいるなら、それは行き過ぎだ」という発言はかなり批判をされたが、ネットでの数々の投稿やへずまりゅう市議のこれまでの活動を見ていれば事実の面もあるだろう。

たしかに「日本を守り抜く」といった「岩盤保守」の支持層へのアピールが過ぎている面もある。個性が強いために、その裏返しで何かと批判をされがちでもある。

「リーダー人事評価」

筆者は人事評価の専門家として各階層の求められる能力と行動特性を研究している。以下が基本的にはリーダーシップの評価の評価軸である。

筆者作成

総理大臣の采配は他のマネジメントとは形態が変わってくるので、これをもとに、昨年、以下のような評価視点を提示し、各候補を評価した(あくまで筆者による自己評価なのでご注意ください!)。

筆者作成

今回、さらに「リーダーのコンピテンシー」を掘り下げよう。

このコンピテンシーの中でも本当の意味で日本の首相に必要なのは、「部下を的確に指示命令ができる」こと、「信頼を持たれる言動・行動ができる」こと、「場面に応じて、的確な判断ができる」ことであり、そのことの重要度が高い。この3つをさらに分解・ブレークダウンすると・・・

①「部下に的確に指示命令ができるためには

  • 幹部や部下の能力やスキルや強みを理解している
  • 目標達成のためのイメージ、命令の意義や意味を部下に納得行くように伝えることができる

②「信頼を持たれる言動・行動ができる」ためには

  • 自分が絶対に正しいと思っていなく、自分を客観視できる
  • 周りへの配慮や優しさや愛情がある
  • 自分が誤った場合には(周囲に)素直に言える、謝罪できる
  • 部下が「この人のためなら」と思えるだけの人間性や人柄を持っている
  • 言動と行動が一致している
  • 物事に動じず、泰然自若している、厳しい時に逆に周りを鼓舞する

③「場面に応じて、的確な判断ができる」ためには

  • 状況を正しく、偏りなく、大事なポイントを理解できる
  • 官僚や周囲が出してくる内容に対して一貫性のある判断基準を持っている
  • 多くの立場・視点から総合的に客観的にみることができる
  • 物事が進まないときにも、できる限り冷静にいて、問題解決策を探れる

さらにこれらの「条件」をさらに深い根底の階層にブレークダウンすると、

④ 基盤レベルとして

  • 首相として何を成し遂げるのかの思い、使命、情熱がある
  • 有力な利害関係者や一部の関係者のためではなく、全体的かつ歴史的視点を踏まえて行動すべきだと考えている
  • 主権者である国民への寄り添え、奉仕する意欲を持つ

といったところになる。

こうした「リーダー人事評価」をしてみると、高市さんはかなり知的能力が高く、合理的な思考と行動ができるリーダーだということがわかるだろう。

推察すると

  • 目標達成のためのイメージ、命令の意義や意味を部下に納得行くように伝えることができる
  • 自分が絶対に正しいと思っていなく、自分を客観視できる
  • 自分が誤った場合には(周囲に)素直に言える、謝罪できる
  • 部下が「この人のためなら」と思えるだけの人間性や人柄を持っている

と言った点が課題だろう。

総務大臣時代に「(放送局に対して)放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性があると発言」して批判を受けた。今後は、政府の立場だけでなく、社会の観点から見てどうなのか?など多面的・客観的かつ慎重な発言も求められるだろう。信念が強いのはとてもよいが、信念そのものの考え方を客観的に吟味して検討していくプロセスを通して、信念を研ぎ澄ましていく必要もあるだろう。

高市さんに批判的な多くの人たちに対して、信念をいかに説得的に伝えるか、納得はしてもらえなくても、ある程度理解をしてもらえるかがカギになる。ゆるぎない信念も大事だが、政策的なものに関しては多面的な吟味も必要だろう。

部下や周りとの「飲み会」は必要ないとは思うが、部下や周りのブレーンとの対話と議論でその知見や考え方をさらにブラッシュアップすることも必要だろう。結果的に、部下はその合理的思考を信頼して仕えることができるようになるだろう。

高市さんへの期待

リーダーとは、合理的な行動をとれるかはもちろんあるが、本質は「修羅場で人を率いられるか」と筆者の師匠が定義していた。時には自分の枠を飛び出し、どこまで苦しみ悩んだ経験があるのか。本当の修羅場をくぐった経験があるのかわからないが、人を勇気づけ導けるのだろうか。特に、何か自分や周囲の身に問題が起きたときに、冷静に対処し、融和的に、相手の立場にたって行動することができるのだろうか。

座右の銘は「高い志 広い眼 深い心」。こうした行動を実際、実践している人のようにも思える。男社会の政界。「戦国時代の武将」のような男性政治家と対峙して、うまく手なずけることができれば、リーダーとしては成果を出すだろう。

目標とする政治家はマーガレット・サッチャー元英国首相だそうだ。トランプ、プーチン、習近平といった人たちとも対等に、彼らと丁々発止で渡り合える可能性がある。信念と覚悟とその知性で、日本を引っ張るリーダーになれるか。高市さんに期待したい。

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