ガザに平和が訪れる?

米議会メディア『The Hill』は26日夕刻、「トランプ大統領、ガザ協議(Gaza talks)は『刺激的で生産的』と称賛」との見出しで、ここ4日間、この地域のすべての国・地域が関与する交渉が持たれており、「合意を成功させるために必要な限り継続されるだろう」と述べたことを伝えた。

トランプ氏にしては歯切れの良くない物言いの内容と思しきものを、9月18日のイスラエル紙『Times of Israel』がAI邦訳6200字ほどの長文で報じている。

記事に拠れば、この地域の利害関係者を集めた協議は、トニー・ブレア元英国首相が提案した、ガザ地区がパレスチナ自治政府(PA)に引き渡されるまで同地区を統治する戦後暫定機関を設立するという計画(以下「計画」)に基づいており、トランプ大統領が「計画」に賛同して、開催の運びになったとされる。

ブレア氏のガザへの関与は、8月27日に行われたホワイトハウスでの政策会議に参加したことで既に明らかにされていたが、「計画」の詳細は公表されていなかった。ブレア氏はトランプ政権の当局者らと定期的に協議を始め、地域の指導者らと会談し、「計画」の詳細を詰める中で進捗状況を報告し始めていた。

ブレア氏の関与には「アブラハム合意」でも活躍したジャレッド・クシュナー氏が関わっていた。彼は、ブレア氏のイスラエル、パレスチナ自治政府、アラブ諸国の指導者との繋がりを見込んで、「トニー・ブレア地球変動研究所(TBI)」に「計画」の策定を委託していた。8月27日の会議も彼の企画とされる。

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「計画」の具体案と思しきものを25日の『Axios』がトランプ大統領のガザ和平計画は地域の指導者から支持される」との見出しで簡潔に報じているので、そちらを以下に紹介する。

同記事は、「情報筋によれば、米国の提案は過去6カ月にわたって議論されてきたアイデアのバリエーションであり、トランプ大統領の義理の息子ジャレッド・クシュナー氏と英国の元首相トニー・ブレア氏が考案したアイデアのアップデート版だという」と断った上で、以下の原則を記している(太字は筆者)。

  • 残りの人質全員の解放。The release of all remaining hostages.
  • 恒久的停戦。A permanent ceasefire.
  • イスラエル軍がガザ地区全域から段階的に撤退。Gradual Israeli withdrawal from all of the Gaza Strip.
  • ハマス抜きのガザ統治機構を盛り込んだ戦後計画。A post-war plan that includes a governing mechanism in Gaza without Hamas.
  • パレスチナ人だけでなくアラブ諸国やイスラム諸国の兵士も含む治安部隊。A security force that would include Palestinians but also soldiers from Arab and Muslim countries.
  • ガザ地区の新政権と飛び地の再建のためにのアラブ諸国・イスラム諸国からの資金援助。Funding from Arab and Muslim countries for the new administration in Gaza and for reconstruction of the enclave.
  • パレスチナ自治政府の何かしらの関与。Some involvement of the Palestinian Authority.

情報筋によると、トランプ大統領は協議に参加したアラブ諸国とイスラム諸国、即ち、サウジ、UAE、カタール、エジプト、ヨルダン、トルコ、インドネシア、パキスタンの指導者に対し、これらの原則への支持と「計画」への参加の約束を求めたという。一方、指導者らが「計画」支持の条件として提示した事項は以下のようだ。

  • イスラエルはヨルダン川西岸地区やガザ地区の一部を併合しない。Israel will not annex parts of the West Bank or Gaza.
  • イスラエルはガザの一部を占領しない。Israel will not occupy parts of Gaza.
  • イスラエルはガザに入植地を建設しない。Israel will not build settlements in Gaza.
  • イスラエルはアルアクサモスクの現状を損なう行為をやめる。Israel will stop undermining the status quo at the Al-Aqsa Mosque.
  • ガザへの人道援助を直ちに増やす。Humanitarian aid to Gaza will immediately increase.

やはり、①ハマスによる人質全員の解放、②ハマス抜きのガザ統治機構を盛り込んだ戦後計画、③ヨルダン川西岸地区・ガザ地区を併合しないこと、3項目がパレスチナ・イスラエル双方にとって、困難だが必須の要件になるようだ。『Times of Israel』は②の統治機構を「ガザ国際暫定自治政府(GITA)」と記している。

この辺り、『Axios』は会談の内容に詳しい情報筋の話として、「トランプ大統領はアラブ諸国の指導者らに対し、次のステップはネタニヤフ首相の支持を確保するため月曜日(9/29)にホワイトハウスで同計画について協議することだ」と語ったと報じている。

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また、アラブ側についても、アラブ当局者が「米国の概要は良かったが、アラブ諸国の意見を取り入れてもう少し修正する必要があった。最終決定後、米国はビビ首相にそれを納得させる必要があるだろう」と述べたとしている。

ネタニヤフ氏はトランプ氏が納得させるとして、ハマスへの対応はどうするかといえば、『Times of Israel』に、GITAの警察部隊としての「国際安定化部隊(ISF)」が支援するとある。移行期間中にガザ地区で戦略的安定と作戦上の保護を提供するために設立する、国際的に委託された多国籍治安部隊とある。

ISFについて「計画」には、「国境の完全性を確保し、武装集団の復活を抑止し、人道支援活動と復興活動を保護し、代替ではなく調整を通じて現地の法執行機関を支援する」と記されている。具体的には「武装集団の復活を防ぎ、武器の密輸を阻止し、公共の秩序と制度機能に対する非対称的な脅威を無力化するために、的を絞った作戦を実施する」。

ISFが機能してハマスが壊滅し、「計画」が実現したその先に、パレスチナ国家の承認があるかも知れぬ。が、クシュナー氏とブレア氏のTBIが絡んでいるとなれば、トランプの「中東のリビエラ」と別のうさん臭さ、即ち「利権の臭い」が漂わぬでもない。

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