10/4に迫る自民党総裁選ですが、今日発売の『正論』11月号の特集は「私が考える “救国” 内閣」。企画が立った際は、石破茂首相の進退は未定だったはずですが、ピッタリの刊行となりました。
で、まぁ「炎上しかしないだろうなぁ…」と思いつつ、ぼくも組閣しちゃったんですねぇ(苦笑)。以下、編集部の許可を得て、閣僚名簿はじめ全文を公開します。アゴラへの転載もOKです。
なお、選出するポスト8つは、同誌からの指定です。見出しの命名も。
これより左には行きません
内閣総理大臣…林 芳正
外務大臣…浮島智子(公明党)
財務大臣…小林鷹之
経済産業大臣…南場智子(民間)
農林水産大臣…小泉進次郎
防衛大臣…斎藤 健
内閣官房長官…小渕優子
自民党幹事長…高市早苗『正論』読者には愉快でないかもしれないが、私は安倍長期政権を可能にしたのは、2015年の一連の「歴史的妥協」だったと思っている。
4月の米国上下両院での演説や、8月の安倍談話での戦争の扱いが穏当な内容で、12月には韓国とも慰安婦問題で合意した。批判者から右傾化と呼ばれても「これより先には行きませんよ」と明示したことが、国民にも海外にも安心感を与えたと思う。自民党に「結党以来の危機」はなんどもあったが、今回初めて起きたのは、より右から「自民党はリベラル化した!」と非難を浴びせる野党の出現だ。
だったら対策は簡単で、10年前の安倍政権とは逆に、あくまで保守の枠内でのリベラル路線として「これより先には行きませんよ」というリミットを、示せばいい。経産相にはなにより、男女がともに自由なライフコースを選べる制度設計を願いたい。LGBTなどの多様性政策については特命相を置いて、稲田朋美氏を起用するのもよいかもしれない。防衛相は、戦前の失敗を扱う歴史書を手がけている方を選んだ。
公明党が国交相を「定位置」にしているのは疑問だったので、国境をまたぐ活動から政治家に転じた方を外相に。世界情勢が不穏ないま、宗教間の対話にも尽くしてほしい。
最後は首脳どうしの直接会談で決める時代で、そこはベテランが締めてくれるから心配はない。宏池会系の首相と旧田中派の官房長官なら、難問の多いアジアからも不満は出ない。小泉純一郎政権下で毎年の靖国参拝が波紋を呼んだ際に、「首相・官房長官・外相はなしで」とのリクエストを、中国の王毅大使(現外相)が寄せたことがある。それに含まれない要職を、率先して保守派の顔に委ねれば、党内融和にもつながろう。
もちろん、その程度のリベラル路線はごまかしで、「真のリベラルではない!」といきり立つ有権者も出るだろう。そうした人は、「保守内リベラル」では実現できないマニフェストを掲げて、堂々と政権交代をめざせばよいだけだ。
おそらくは大敗し、彼らの持論が「極論」にすぎないことが可視化されれば、政治も民意も中庸を取り戻す。
66-7頁
算用数字に改め、強調を追加
補足しますと、民間から(勝手に)経産相に入閣させてしまった南場智子さんは、今年8月に話題になったこちらの発言から。
斎藤健さんの歴史書については、以下の記事でご本人が語っています。「スペシャリスト」の独走を批判するにしては、コロナ禍でのセンモンカに甘い点が気になりましたが、21年1月の掲載だしそこは “大人の事情” かなと。
外相に(勝手に)推した浮島智子さんは、ご本人のサイトに波乱の来歴があります。「上から」の目線でなく外交を語れる・取り組める人こそ、国際政治が大変な時代に適任ではないでしょうか。
官房長官の小渕優子さんは、先日お父さんの事績を思い出す機会があったためで、2000年のサミット誘致もそのひとつ。肩書に「沖縄担当相兼務」と入れるべきでした(ので、いま追記します)。
戦後60年だった2005年の王毅大使の発言は、このリンク先に当時の報道がまとまっていました。日本ではもう「戦後」なんて風化して、存在しないも同然ですが、他の国も同じとは限らないのが、夏にも書いたとおりこの問題の難しさです。
「安倍長期政権の理由」について、初めて語ったのは、2022年の8月に出した池田信夫さんとの対談本で。まさか、直前に安倍さんが撃たれて亡くなるとは予想もせず、最後のゲラで(他の箇所を)少し直してもいます。
與那覇 ドイツで起きた「社会民主党だから雇用改革ができる」、「緑の党だから脱原発を修正できる」に近い現象は、むしろ安倍政権下で起きたと私は思っています。典型は15年末、韓国の朴槿恵政権との慰安婦問題最終合意。
最右派の「安倍ファン」からは評判が悪かったわけですが、でもタカ派のシンボルである安倍さんだからこそ「いくら『右寄り』と言っても、日本政府として行ける限界はここまでで、その先まで踏み越えることは今後ともありませんよ」と、内外に示せたのではないでしょうか。
64-5頁
しかし、つくづく思うんですが、これ、同じ企画がリベラル派の雑誌で成立するかなと思うと、「うーん……」なのが現状ですよね。可能性はとりあえず措いて、理想論で組閣していいから、ならホントはできるのに。
もちろんできない理由は、「アイツ、誰それ首相がいいって!」「信じられない、裏切り者だ」「今後は寄稿させるな、SNSでもハブれ」「うおおおオープン(略」になるからですが、どうもねぇ。もはや保守派の方がはるかに “寛容” ですな。
トランプ再選に貢献した右派系オーガナイザーの射殺事件では、米国民主党左派のサンダースが優れた声明を出し、称賛されています。一方で日本のリベラルは安倍暗殺の後、延々半年間も「トトーッ、ト・ト・ト・統一教会! 撃たれた奴にも悪い点があるんだ!」でしたからねぇ。
……なんていうかもう、彼らが支持する政権は「作らない」ことが、日本では政治的な自由を守る道ですな。つまり、リベラル派が支持しない範囲で “リベラル” な政権を作るのがベストという、ヘンな国になってしまった。
実は同じ11月号の『正論』、そうなった理由を探る長編論考も別途寄稿しているんですが、そちらはまた後日にて。他の方の組閣例も含めて、書店でこの特集、楽しんでもらえるなら幸いです!
参考記事:
(ヘッダーは日本経済新聞より)
編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2025年10月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。