自民党総裁選での本命候補が揺れている。ステマ問題、党員除外問題、どうなる小泉さん。
筆者は長年、政策評価や人事評価の専門家として「政治家の人事評価」などを提起してきたが、首相としての「リーダー人事評価」を考えていきたい。第5回目は、小泉さん。
内閣府地方創生の時に、彼に仕えたため面識もあるが、そこは客観的に見ていこう。この方は自民党総裁、いや日本の首相としてどうなのか? 多くの人に好かれて人を動かせる、その人間性と未来志向で、新時代のリーダーとしての可能性を持っている。
世間での「評価」と「偏見」
世間からは、人気があるゆえのやっかみや嫉妬を多く受けている。ネットでは、「何を言っているのか分からない」「言葉が空回りしている」と批判されている。特に、SNSでは「進次郎構文」としてパロディ化されている。かわいそうなほどの、いわれのない嘲笑を多数受けている。
そこまで総理は完璧でなくてもよいものだが、多くの人から見て、優れた容姿や優しそうな態度、親も政治家という血筋に恵まれていることなどが理由で、そうした負の感情を受けるのであろう。
「見た目や言葉は派手だが、政策の具体性がない」「議員立法が少ない」など、実務力に疑問を持つ声が多い。ディベートのような討論会においては、官僚やコンサル出身のベテラン政治家に囲まれ、確かに討論する能力の相対的な低さが目立ってしまう。
「中身が伴わない」「言葉だけの政治家」「カンペを見すぎる」という評価ではあるが、故・安倍さんは総理時代、カンペを読んでばかりで、プロンプターを見てばかりで、それでもやれていた(総理として評価が高い)。
安倍さんは議論であっても、お世辞にも有能だとは言えなかった。なんとなくはぐらかしたり、ごまかしたり、意味不明な回答であったりが多かった。そう、総理は弁護士のような議論能力・技術を持っている必要はないのだ。討論がうまい人は、えてして、論点をずらしたり、詭弁を呈したり、胡麻化したりするのも得意だ。そうした技術を駆使できないほうがある意味、誠実でもある。
小泉さんは知識不足なども厳しく指摘されている。たしかに、首相となると幅広い知識を求められる。しかし、質問は細かい内容、技術的な話も多く、いちいち細かい数字を覚えられるものでもない(覚える必要もない)。大事なのは相手を納得させるコミュニケーションなのだ。その意味で、小泉さんは環境大臣、農水大臣においてはしっかり役割を果たせている。
「リーダー人事評価」
筆者は人事評価の専門家として各階層の求められる能力と行動特性を研究している。以下が基本的にはリーダーシップの評価の評価軸である。
筆者作成
総理大臣の采配は他のマネジメントとは形態が変わってくるので、これをもとに、昨年、以下のような評価視点を提示し、各候補を評価した(あくまで筆者による自己評価なのでご注意ください!)。
筆者作成
今回、さらに「リーダーのコンピテンシー」を掘り下げよう。
このコンピテンシーの中でも本当の意味で日本の首相に必要なのは、「部下を的確に指示命令ができる」こと、「信頼を持たれる言動・行動ができる」こと、「場面に応じて、的確な判断ができる」ことであり、そのことの重要度が高い。この3つをさらに分解・ブレークダウンすると・・・
①「部下に的確に指示命令ができるためには
- 幹部や部下の能力やスキルや強みを理解している
- 目標達成のためのイメージ、命令の意義や意味を部下に納得行くように伝えることができる
②「信頼を持たれる言動・行動ができる」ためには
- 自分が絶対に正しいと思っていなく、自分を客観視できる
- 周りへの配慮や優しさや愛情がある
- 自分が誤った場合には(周囲に)素直に言える、謝罪できる
- 部下が「この人のためなら」と思えるだけの人間性や人柄を持っている
- 言動と行動が一致している
- 物事に動じず、泰然自若している、厳しい時に逆に周りを鼓舞する
③「場面に応じて、的確な判断ができる」ためには
- 状況を正しく、偏りなく、大事なポイントを理解できる
- 官僚や周囲が出してくる内容に対して一貫性のある判断基準を持っている
- 多くの立場・視点から総合的に客観的にみることができる
- 物事が進まないときにも、できる限り冷静にいて、問題解決策を探れる
さらにこれらの「条件」をさらに深い根底の階層にブレークダウンすると、
④ 基盤レベルとして
- 首相として何を成し遂げるのかの思い、使命、情熱がある
- 有力な利害関係者や一部の関係者のためではなく、全体的かつ歴史的視点を踏まえて行動すべきだと考えている
- 主権者である国民への寄り添え、奉仕する意欲を持つ
といったところになる。
こうした「リーダー人事評価」をしてみると、小泉さんは他人に配慮でき、心をつかみ、相手を励ますことのできる、モチベーション型のリーダーだということがわかるだろう。
推察すると
- 首相として何を成し遂げるのかの思い、使命、情熱がある
と言った点が課題だろう。
総理になれば、部下や関係者など周りが多くのことをかいつまんでわかりやすく教えてくれる。それに対して興味をもったこと、「これは将来の日本に必要なこと」だと自分が思うことについては知識をつけ、本を読んで学ぶ、わからないことは素直に質問する、それで十分だろう。
国会という儀式的な場やメディアへの質問に対して、答えられるだけの勉強をするだけでいいのだ。言葉で周りを引っ張れなくても、その判断力と気配りで高い知的能力を持つ部下に動いてもらえれば、動かせればいいのだ。
政治家一家独特の苦労、幼少期の寂しさなど、それなりに苦労をしているし、そのため、周りへの配慮ができる人間でもある。相手を一言で動かせる点も強みだろう。
小泉さんへの期待
リーダーとは、合理的な行動をとれるかはもちろんあるが、本質は「修羅場で人を率いられるか」と筆者の師匠が定義していた。時には自分の枠を飛び出し、どこまで苦しみ悩んだ経験があるのか、本当の修羅場をくぐった経験があるのか。何か自分や周囲の身に問題が起きたときに、冷静に対処し、融和的に、相手の立場にたって行動することができるのだろうか。
そのあたりは本当のところわからないが、人を勇気づけ導けれそうな人物でもある。
小泉さんが総理になった場合、「長老支配になる」、「官僚に操縦される」などのリスクがささやかれてはいる。しかし、自民党が相当厳しい状況にあること、小泉さんの双肩に自民党の命運がかかっている。それだけの覚悟もあるだろう。
たんなる操り人形で終わるような人ではないのも確かだ。そのきさくさ、感じの良さ、人間力で誠実に相手に向き合い、物事を進めていくだろう。ステマ問題についてもきっちり潔いほどに謝罪した。自分が関知しないことでも、責任をとれる姿を示したといえる。また「レジ袋有料化」や「脱炭素社会の推進」などを実施してきたし、政策についても発信力を持っている。
先輩をリスペクトしつつも、人間性、誠実な人柄で周りを巻き込み、人を動かす。小泉さんに期待したい。
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