10月3、4日の両日実施されたチェコ議会選挙(下院)の開票が行われ、アンドレイ・バビシュ前首相率いる右派ポピュリスト政党「ANO」が約35%の得票率を獲得し、圧勝した。一方、ペトル・フィアラ首相の保守派「市民民主党」(ODS)、「キリスト教民主人民党」(KDU-CSL)、そして中道リベラル派の「TOP 09」で構成された与党「選挙連盟」(シュポル)は約23%に留まった。
また、右派リベラル派の「STAN」は11%、実業家トミオ・オカムラ氏が率いる右派ポピュリスト政党「自由と直接民主主義」(SPD)は8%、「海賊党」は9%の得票率を獲得した。そのほか、新党の右派「モトリスト」は7%を獲得し、議席獲得に必要な得票率5%をクリアした。
アンドレイ・バビシュ氏インスタグラムより
将来の下院(定数200)は、ANOが80議席、ODS27議席、STAN22、海賊党18議席、KDU-CS16議席、SPD15議席、「モトリスト」13議席、TOP9は9議席となる予定だ。
「ANO」の勝利は投票前から予想されていた。2017年から2021年までチェコ首相を務めた億万長者のバビシュ氏は「欧州連合」(EU)には懐疑的だ。EUのブリュッセルの官僚支配を嫌う。親EU路線を走ってきたフィアラ現政権とは明らかに異なる。
ウクライナ支援政策の見直しも避けられなくなるだろう。チェコはウクライナ支援の「有志連合」のメンバーであり、ウクライナへの武器供与、兵士の訓練などをしてきた。ウクライナ戦争が始まって以降、ウクライナに2000点以上の重装備、火砲、戦車、ミサイル発射装置などを供与してきた。また、多数のウクライナ難民を受け入れ、キーウの防衛を支援するための「軍需品イニシアチブ」を立ち上げた。しかし、現政府のウクライナ支援に対して、「自国への配慮が不足している」と批判されてきた。国民の間にも支援疲れが出てきている。
それに対し、バビシュ氏はウクライナでの停戦と軍事援助の停止を訴え、「チェコの政治家はこの問題に影響力を持たない。戦争が終わるまで待とう」と主張するなど、ウクライナ政策では、スロバキアとハンガリーの政策に近い。バビシュ氏はスロバキアのロベルト・フィツォ首相とハンガリーのヴィクトル・オルバン首相と良好な関係にある。バビシュ氏は彼らとブリュッセル批判の連合を形成する意向といわれている。
経済の面でも国民の間には現政府に不満の声がある。特に、物価の高騰だ。2023年にはインフレ率が10%を超えた。現在は3%を下回ってきたが、国民は購買力の低下に悩んでいる。
ちなみに、バビシュ氏は熱心なトランプ氏ファンだ。バビシュ氏の支持者たちは、トランプ氏の「アメリカを再び偉大に」に倣い、「強いチェコを」と印刷された赤い帽子を被っているほどだ。
いずれにしても、バビシュ氏は新政権を発足させるためには連立相手を必要とする。ANOのパートナー候補としては、SPDが挙げられている。ただ、SPDは政権外に留まり、ANOの少数与党内閣を容認する可能性も考えられる。問題は、ANOとSPDの両党で過半数を獲得できなかった時だ。その場合、初めて議会選挙に参加した右派政党「モトリスト」が挙げられる。選挙戦終盤に入り支持率を伸ばした「モトリスト」は、「バビシュ氏を支援する」と公言してきた。
ただ、問題はある。SPDも「モトリスト」もEU離脱を主張していることだ。EUに批判的だが、離脱には反対のバビシュ氏にとって2党との連立は容易ではない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年10月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。