ネタニヤフ首相は振り上げた手を下ろせるのか?

イスラエルのネタニヤフ首相は世界の首脳の中でプーチン氏と共に行動が読みにくいひとりであります。ネタニヤフ氏自身が祖国防衛という強い思想を持っていることは確かです。ただ、それ以上に同氏は同国内で極右政党から突き上げを食らっており、連立政権崩壊の危機の中、ネタニヤフ氏が強硬姿勢を止められないのは自身の議会での立場にあるからではないか、とも考えられます。

2025年10月5日 ホワイトハウスで会談したトランプ大統領とネタニヤフ首相 同首相インスタグラムより

イスラエルの議会はクネセトと称し、一院制議会で議席の定数は120であります。その院内勢力は61対59,ほぼ拮抗状態にあります。もともとは与党にもう少し余裕があったのですが、今年7月半ばに連立与党のユダヤ教トーラ連合(UTJ)がユダヤ教神学校生徒の兵役免除の法案が進まないとして連立離脱をしてしまったことでネタニヤフ政権はまさに薄氷の政権運営となっています。

その上、現在、連立を組み11議席を有するもう一つの超正統派政党、シャス党も離脱をほのめかしており、ネタニヤフ氏としては極右政党を満足させる外交政策を高い緊張感をもって行い続けなくてはいけない針のむしろ状態にあるのです。

ガザ地区を巡る展開はこの数日から一週間程度で大きな展開が見込まれるとされます。それはトランプ政権がリードするイスラエルとハマスの和平提案であり、トランプ氏は相当の自信をもってこの和平交渉に挑むことになります。草案作成にはトランプ氏の娘婿であるジャレッド クシュナー氏とウィトコフ中東担当特使が担当、和平交渉の席にも着く予定です。

トランプ氏がここまで力を入れているのは自身のノーベル平和賞に淡い期待を寄せているからともされ、トランプ氏はその受賞のために様々な電話をかけまくっているとされます。つまり、トランプ功績第一主義であり、そのためにはアメリカ政府として最高の対策を打ち出し、トランプ氏は半ばネタニヤフ氏を電話で恫喝しながら和平提案受け入れをさせようとしています。

今年のノーベル平和賞についてはトランプ氏は有力候補リストには現時点で入っていませんが、特に政治的配慮が大きいとされるノーベル平和賞はふたを開けてみないとわからないのでトランプ氏は本気そのものだともいえます。(逆に言えばノーベル平和賞受賞を逃したとき、トランプ氏の態度がどう変わるかも見ものだと言えます。)

ではネタニヤフ氏はトランプ氏の懇願にYESと言えるのでしょうか?

まず、ハマスが諸条件を全部飲むか、これが不明です。特に難関とされるのがハマスに武器を置け(非武装化)要求をしている点ですが、理由はそれを飲めばハマスは存在意義を失うのも同然とされるからです。事実、この点については現時点でハマスからは何ら明確なスタンスは示されていません。

次にイスラエルはアメリカの言うなりになるでしょうか?ここでいうイスラエルとはネタニヤフ首相というよりイスラエル内の極右政党がしぶしぶでも同意するか、であります。ネタニヤフ首相がもしも極右の反対がある中でハマスとの紛争終結の合意をすれば連立政権は崩壊の危機となり、ネタニヤフ氏は下野する可能性があります。(事実、同国内世論調査でネタニヤフ氏が辞任すべきとする人は7割もいるのです。)その時、ネタニヤフ氏を待ちまえるのは過去の汚職による有罪、収監であります。

まとめるとガザ紛争の終結に向けた同床異夢とは
トランプ氏:ノーベル平和賞が欲しい
ネタニヤフ氏:収監されるぐらいなら何が何でも首相の座にかじりつく
イスラエル極右派:祖国防衛のために完璧なまでの防衛策と最大級の攻勢を継続すべき
ハマス:自らの存在は否定したくない
ガザ地区の隣のエジプト:ガザ難民がエジプトに流れてきて欲しくない

ではないかと思います。これが真の和平と言うには苦しいものがあります。この複雑な連立方程式をこの1週間で解けるのか、公開されている情報だけを見る限り、私にはYESとは言い切れないのであります。

特にイスラエルの場合、敵はハマスだけではないのです。とすればネタニヤフ氏が取れるもう一つのアイディアはハマスとはトランプ氏の顔を立てて合意するも、他の敵に様々な難癖をつけて戦争状態を維持することで極右政党と協力関係を維持することはあり得るかもしれません。それは言うまでもなくネタニヤフ氏と極右政党の自己都合であって、既に世界を敵に回している中でより厳しいイスラエル非難が起きることになります。

一番恐ろしいのはネタニヤフ氏が破れかぶれで無茶な外交政策を推進し、自らを絶対的ヒーローに仕立て上げるべく行動に出ることでしょうか?私が見る限り、ネタニヤフ氏はもはや立ち止まるという選択肢はないように見えます。行きつくところまで行き、いつか自爆する、そんな気がします。

今日のお題の答えは「振り上げた手は下ろせない」それが私の感じるところです、これからⅠ-2週間は外交とイスラエル内政の極めて重要な攻防戦となりそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年10月6日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。