「雑さ」のマイナスは複利で積み上がる

黒坂岳央です。

仕事でも人生でも、「雑さ」のマイナスは多くの人が想像する以上に大きい。

誰しもこだわりが強い部分といい加減な部分が介在するものだ。だが、人によっては仕事が全体的に雑で適当になってしまうケースがある。なにをかくそう、かつて会社員時代の筆者だ。

メールの誤送信、書類の記入漏れ、顧客への返信遅れなどあらゆる事務作業が適当で雑だった。なんならメールを送信する前に誤字に気づいていながら「まあいっか」で送ってしまうこともあった。

現在は大変反省して心を入れ替え、逆にマメになった。この経験からもこうしたあらゆる雑さは複利で大きくなっていき、やがて返済しきれない巨額の負債となって人生をダメにしてしまうことを注意喚起したい。

takasuu/iStock

仕事が雑になる理由

仕事や日常生活、人間関係などあらゆる場面で雑さが出る人には理由がある。

根本原因は、怠慢もあるが「その方が時短で効率的」という勘違いなのだ。たとえばメールの誤字や書類の記入漏れは「見直す時間がムダ」と思っていたし、上司がチェックしてくれるのでそこでエラーが出たら修正すれば「自分の仕事は」時短できると考えていた。

だが、これは非常に視野が狭い。誤字や記入ミスは先方の信用を失うし、上司のエラーチェックは相手の時間と手間を使って自分だけ楽をしたいという欲求を叶える自己中な考え方だ。また、ミスがあると全体的な見直しが何度も発生するのでかえって効率が悪くなる。

会社組織はチーム戦で動くものなので、一人が雑で手を抜くと全員でカバーしなければいけなくなる。企業は利益追求組織なので、合理性を欠くメンバーはジャマでしかない。また、単にチーム全体の生産性を落とすだけでなく、品質低下や顧客からのクレーム、指揮も落ちてしまう。悪い事だらけだ。

そして最もリスキーな要素は「信用残高の低下」である。「まあいっか」という手抜きは先方には「手を抜いた。こちらを軽視した」と伝わる。「雑な人」とは、注意力が散漫な人というより、周囲の人間のリソースを自分の仕事や人生のために私的に扱うテイカーなのだ。

そしてたった一回の手抜きは大きく残高が減少してしまい、膨大な時間をかけなければ簡単に復活はしない。しかも本人はなかなか気づかない。

「雑さ」は省エネのつもりで始めたはずが、結果的には最もコスパの悪い行動となるのだ。

「完璧主義」とのバランス

一方で、「雑さ」の反対である完璧主義も危険である。

何事にも100点を求めるあまり、認知的負荷を最大化し、仕事のスピードが落ちてしまう。細部にこだわること自体は悪ではないが、「80点で十分OKな品質」ということを認められず、永遠に仕上げが終わらない。このような状態もまた、雑さと似たようなローパフォーマンスとなる。

完璧主義者は「自分に厳しい人」と思われがちだが、裏を返せば「失敗を恐れて動けない人」である。現代のビジネス環境では、変化が早く、スピード感こそが価値になる場面が多い。完璧さよりも、改善を前提としたスピーディーな試行錯誤こそが、実質的な“精度”を高める手段である。

大切なのは、「雑さ」でも「完璧主義」でもなく、“丁寧なメリハリ”を持つことだ。たとえば、「初期段階では7割の完成度で早めに出す」「最終チェックだけは徹底的にやる」といった“どこで丁寧にするか”の線引きを自覚することである。今ならAIにたたき台を作ってもらったり、誤字脱字チェックをしてもらうという方法もある。

雑な対応をする人は、AI以下の人材となり、丁寧な対応をする人は、「この件は丸ごとこの相手に任せたい」と信頼を得る。そこには明確な市場原理が働いている。

丁寧さとは、「性格」のように見られがちだが、実際は技術とビジネス感覚なのだ。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。