黒坂岳央です。
現在、世界中でスマホ中毒者が急増しており、社会問題になっている。だが、不思議なことに同じデジタルデバイスで歴史も長いPCの中毒者は、ゼロとは言わないまでも昔からずっと大きな問題にならない。なぜなのか?
筆者はWindows95が出たばかりの時期からずっとPCを使い続けている。スマホも持っているが、使用頻度はPC9:スマホ1で圧倒的にパソコンが多い、PCユーザーである。コロナ禍くらいまではスマホ依存度が高かったが、今は克服している。
これは意識的にスマホ依存症を克服したのだ。そのためにやったことは、まさに本稿の問い、「なぜPC中毒にはならないのにスマホ中毒になるのか?」を追求したのだ。現在、スマホ中毒でお悩みの人の解消につながればと思い、執筆したい。

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スマホは中毒になりやすい要素が溢れている
基本的にスマホでできることはほぼPCでできるが、その逆はできないことも少なくない。つまり、性能や機能性を考えると「PCはスマホの上位互換」といえる。だが、スマホはPCにない明確な「中毒化しやすい要素」で溢れているのだ。
スマホは設計思想そのものが「人間の脳を中毒にしやすく」作られている。それに対し、PCは「生産のための道具」として生まれたという根本的な違いがある。実際、記事を書く、動画編集、音楽の制作、その他仕事をする上ではPCが前提であり、スマホは視聴デバイスという棲み分けがなされている。
たとえば同じ「ネットショッピング」という区分けでも、ショッピングサイトの構築はPCでするのが普通であり、スマホは買い物専用、つまり消費である。
また、UI設計の違いも大きい。入力をする際、PCではフルサイズキーボードとマウスを使うのでデスクに座る必要があるが、スマホはタップやスワイプといった受動的操作で完結する。
能動性が必要なPCは使い続けると疲れて休憩を求めるようになるが、スマホは受動的なので楽である。人間は楽な方に流れる。結果として、スマホが中毒の温床になる。
このようにPCとスマホではそもそも、全体的な基本設計が異なる。PCは仕事でお金を生み出す、逆にスマホは消費でお金と時間を使うためのデバイスなのだ。
報酬回路を狙い撃ちするスマホ設計
そしてスマホの中毒性は、脳科学的に説明できる。
SNSや動画アプリは、ユーザーが画面をスワイプするたびに「ドーパミン報酬回路」を刺激するよう設計されている。通知音や「いいね」の赤いアイコンは、脳が「報酬の予測」を行うたびに快感を得るトリガーだ。
さらにいつでもどこでも持ち運びでき、ポケットに入れて体に触れるとまるで体の一部のように四六時中スマホの状態が気になってしまう。加えて、今どきは腕時計を持たずスマホで時間チェックをする人も増えたので、常にスマホが見える場所に置いているとますます集中力は奪われてしまう。
その一方、PC作業は目的志向的の機械なので、能動的に活動して成果が出て初めて報酬が得られる。つまり、スマホは「秒単位で小さな報酬を与えるギャンブル的装置」であり、PCは「努力の末に成果を得る仕事道具」である。
人間の脳は即時報酬に弱く、長期報酬には飽きやすい。スマホ中毒はその生理構造を徹底的に利用しているのである。
問題はまだある。スマホは人心交流も奪ってしまうのだ。PCは創作する前提のマシンであるため、基本的に自分と向き合う装置だ。黙々と文章を書いたり、資料を作ったりするため、孤独と集中を要求する。仕事が終われば、誰かと談笑したりしたくなる。
だがスマホは真逆で、孤独を忘れさせる装置だ。SNSの通知やメッセージ、ショート動画が「つながり」と「承認」を擬似的に提供してくれる。仕事や人間関係に疲れたとき、スマホを開くとすぐに小さな“安心感”を得られる。つまり、スマホ中毒の正体は情報依存ではなく、承認依存と逃避依存の複合体である。
もちろん、PC依存も存在する。オンラインゲーム、株取引、プログラミングなどに没頭しすぎる人はいる。しかしそれは「目的没頭型依存」であり、スマホのような「暇つぶし依存」とは質的に異なる。前者は成果やスキルの蓄積に結びつく場合があるが、後者は記憶にも成果にも残らない。
中毒の見た目は似ていても、脳の使われ方がまったく違うのである。
◇
どうしてもスマホ中毒を治療したいなら簡単な方法がある。ズバリ、完全にスマホを手放せばいい。とはいえ、調べ物や動画視聴などがどうしても仕事や日常生活で必要となる。その場合はPCを使い、キッズケータイを持てばいいのだ。
筆者は実態としてデジタルタイムはほぼPCで賄っており、スマホ画面を見ている時間は1日1時間もない。そうすることで自分の人生を取り戻すことができた感覚がある。スマホ中毒に苦しみ、人生を浪費する感覚がある人は、今こそ平成のデジタルデバイスの使い方に回帰する時ではないだろうか。
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