欧州委員会は「信教の自由」特使の任命を

欧州連合司教委員会(COMECE)は、10月1日から3日までブリュッセルで秋季総会を開催し、2016年に創設されたEU域外の「信教の自由」担当特使のポストが、クリストス・スティリアニデス氏の任期満了以来(2023年)空席となっているとして、欧州委員会に速やかに新特使を任命するように要請した。6日に発表された声明では、「特使の空席は迫害を受けている世界中の宗教共同体にとって憂慮すべきシグナルだ」と強調。さらに、EU内での反キリスト教と闘うためのEU調整官の任命を再度求めた。

COMECE秋季総会、バチカンニュース2025年10月7日から

声明文によると、「信教の自由は奪うことのできない人権であり、EU基本権憲章第10条に明記されている。この自由は多元的な社会における平和的共存に不可欠である。しかし、世界中で大きな脅威にさらされており、個人、家族、そしてコミュニティ全体に深刻な影響を与えている」と警告している。

「信教の自由」担当特使の設置について、司教たちは「EUは外交政策において常に人権保護に尽力してきたが、現状では宗教的迫害に適切に対応するための十分な制度的資源が不足している」として、「特使を早急に任命するだけでなく、必要な財源と人的資源、そして強力なマンデート(権限)を与えるべきだ」と強調、「信教の自由」担当特使の復活が不可欠であると主張している。

欧州議会のアントネッラ・ズベルナ副議長はEU司教たちとの会談で、「EUが様々な課題に直面している今日、精神的・宗教的ルーツを含め、そのアイデンティティと自信を再発見しなければならない」と述べている。

欧州はキリスト教文化圏に入るが、社会の世俗化が加速し、聖職者の未成年者への性的虐待問題が発覚したこともあって、教会から脱会する人が増えてきている。その一方、中東や北アフリカからの難民、移民が欧州に殺到し、イスラム教徒との関係は大きな社会問題となってきた。イスラム教国では少数宗派のキリスト教徒に迫害、弾圧が広がってきている。

ちなみに、COMECEの「信教の自由」担当特使の任命要求は、トランプ米政権の「宗教の自由重視政策」の影響を少なからず受けているのを感じる。トランプ米大統領は9月8日、自身がホワイトハウスに創設した「宗教の自由委員会」の公聴会で演説し、「われわれは神の下にある一つの国であり、そうあり続ける」と述べ、「信教の自由」の擁護を改めて強調したばかりだ。また、「現在、公立学校で信教の自由が、重大な脅威にさらされている」として、祈る権利を保障する、新たな指針を教育省が策定すると発表している。トランプ氏は「信仰が弱まると国は弱体化する」と述べ、2期目に入り、ホワイトハウス内に信仰局を設置し、その代表上級顧問にポーラ・ホワイト牧師を選出している。

欧州の政界では、トランプ氏の「アメリカを再び偉大な国に」(MAGA)に倣い、右派傾向が強まってきているが、トランプ氏の「信教の自由」を重視する傾向もここにきて欧州に波及してきているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年10月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。