イスラエル国民が喜び、涙を流す日

パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム過激派テロ組織「ハマス」が2023年10月7日、イスラエルとの境界線を破壊して侵入、音楽祭に参加中のゲストや集団農園(キブツ)を襲撃して1200人以上のユダヤ人らを射殺、251人を人質にした「奇襲テロ」から今月13日で738日目を迎えた。人質の多くは亡くなってしまったが、生き延びた20人の人質が解放され、28人の遺体が戻るということから、テルアビブなどイスラエル各地で国民は前日から解放の喜びに笑顔で抱き合い、歌い踊っていた。

イスラエルを訪れトランプ大統領 2025年10月13日 ネタニヤフ首相インスタグラムより

現地からの情報によると、ハマスは13日午前、人質7人を最初、赤十字に引き渡し、その1時間後、残りの13人の人質を解放した。解放された人質は直ぐに軍事病院に搬送され、メディカル・チェックなどを受けるとともに、家族との再会を喜んだ。

同時に、イスラエルの刑務に拘束されていたパレスチナ人の終身犯250人と住民約1700人が解放された。イスラエル人の28人の遺体のうち4遺体だけが引き渡された。遺体の身元確認や回収は難しいという。エジプト、カタール、そして米国が専門家を派遣して遺体の回収作業を支援する予定だ。
なお、イスラエル側は殺人やテロ容疑で収容されていたパレスチナ人の終身犯250人の解放には最後まで難色を見せてきたが、最終的には釈放したという。

トランプ米大統領は9月29日、ネタニヤフ首相と会談、パレスチナ自治区ガザについて、20項目の和平計画を発表した。第1段階の和平計画では人質の解放とイスラエル軍の後退が明記されているが、人質の解放が無事行われたことから、第1段階の和平計画は履行されたと受け取られている。

なお、トランプ大統領は13日、イスラエル国民と共に人質解放を喜ぶためにイスラエル入りした。そして予定より3時間半余り遅れたが、同国議会(クネセト)で演説した。同大統領は「ウオー・イズ・オーバー」(戦争は終わった)と宣言し、「中東の歴史的な始まりだ」と強調、イスラエルのネタニヤフ首相、米国のスティーブ・ウィトコフ首席交渉官を称賛した。同大統領の演説中、クネセトは熱狂に包まれた。トランプ氏は演説の終わりに、「神よイスラエルを守りたまえ、そして米国を、そして中東を」と述べた。

ところで、トランプ米大統領はイスラエルへ飛ぶ前、記者団に「50万人余りの人々が昨日と今日、人質の解放を喜んでいる。これは歴史的なことだ。中東ではこれまで、一方が喜べば、他方は喜ばないというのが常だったが、今回は両者が喜んでいる」と述べている。

トランプ氏の20項目の和平計画の第1段階が履行されたことから、和平案計画は第2段階に入るが、ハマスの武装解除、ガザ地区の非武装地帯化、パレスチナの管理問題など、イスラエルとハマス間の間で対立する議題が控えていることから、第1段階より履行が難航することが予想される。

トランプ大統領は午後4時ごろ(現地時間)、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催中のガザ紛争に関する首脳会議に参加するためにイスラエルを後にした。同会議には主要アラブ諸国とイスラム諸国、そして欧州主要国が第2段階の実施について話し合うことになっている。

ちなみに、イスラエルの現地から報道していたドイツ民間放送ニュース専門局nTVのアナウンサーは、「欧州ではトランプ大統領の言動を全て批判的、ネガティブに報道する傾向が強いが、トランプ氏がガザ戦闘を停戦し、人質の解放を実現したことは事実だ。これまで誰も出来なかったことだ」と指摘、トランプ氏に対する欧州メディアの報道の見直しが必要となってきた、と述べていた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。