なぜ変わらない日本の政治:高市早苗氏が苦戦しているわけ

2回目となるTony Robbinsの4日間セミナーに参加をして確信的に思っていることは会場にいる11000人の参加者が異様なまでの一体感を示す圧巻であります。例えば講演者が「立て!」といえば全員立つし、2-3時間毎に5分程度のエアロビクスがあるのですが、老若男女、皆、体を動かします。自分の周り人とのレッスンも多いので1日の終わりには自分の周りの10数名とは「頑張ったな」という絆が生まれます。セミナーの総時間のうち3/4の時間はほとんどの人が立ちながら参加し、セミナー期間の平均睡眠時間は1日5時間でしたので相当つらいものがあります。それでも誰もそっぽを向く人はいないのです。もちろん、高い参加費を払って熱心に勉強したい人ばかりだから当たり前だろう、という意見はあるでしょう。

セミナー3日目に私の目の前の席に家族5人が横一列に座りました。両親とティーンエージャーの男の子が3人です。どうやらお母さんが皆で来ましょう、と主導したらしく、お父さんはそうだな、というフォロワーに見えます。ところが息子3人は座るなりスマホを取り出し、ゲームに熱中。でも親はそれをたしなめません。ところが始まって2-3時間したぐらいから長男と思しき息子が素直に立ち上がり、会場と同化し始め、次男もそれに釣られて立ち上がり始めます。ただ末っ子だけは5時間経っても8時間しても立ち上がらないのですが、ふと見ればいつの間にかスマホをしまい、話を聞き始めています。メインイベントの頃は末っ子君も立ち上がり、会場と一体になってました。

休憩の時、お母さんが一人だったので「息子さんたちへの教育ですか?」ときけば「連れてきて少しでも為になればよいのよ」と子供たちへの投資と愛情を強く感じました。病めるアメリカで最後に勝るのは人間力かもしれないと感じました。最後に嬉しかったのは12時間に及ぶその日のセミナーが終わる頃、「私たち、帰るわね」といってあいさつした時、子供たちは誰一人不満そうな顔をしていなかったことでしょうか?家族の絆を見せられました。

なぜ、一体化できるか、これは一つのカリスマ的な先導者がいるからでしょう。普遍的な先導者とは宗教であり、狭義の世界ではこのセミナーのような感じであり、またこのお母さんのような情熱でしょう。バラバラになった人を束ねるには恐ろしいほどの統率力、人間的魅力、わかりやすさ、とっつきやすさ、手が届く距離感といったエレメントが重要だと思います。

日本の政治がなぜ混乱するのか、自民党内部になぜ力学があるのか、なぜ多数の政党が生まれるのか、私はその一つに日本人に神道的精神が強く宿っているからではないかと感じています。自分が信じていることは先導者に導かれるのではなく、自らが自らの思想の中で形成してきたとも言えます。よってその立ち位置はなかなか修正されず、年齢を重ねるほど、その思想は確立されていきます。つまりガンコになります。極端な話、ある程度の年齢の方が10人で政治の話をすれば細部を含めると10通りの主張が生まれ、その主張の相違点はなかなか妥協できないのです。

高市早苗氏インスタグラムより

政党政治の場合は一定の打算が働きます。それは主義主張にこだわっていれば政党が成長できないので時として相反する相手とも手を組みます。これが原理的思想を持つ人には「お怒り」」となるわけです。「それは違うだろー!」と。言い換えると思想に対する柔軟性がどれだけあるかを試しているとも言えます。

ところで高市早苗氏が苦戦しているのは何故でしょうか?私が大局的に見る限り、ポイントは一つしかありません。それは彼女がガラガラポン的な改革をしようとしていることに世間に戸惑いがあるのです。要は十分理解もできないし、ついて行けていない、です。

日本人は人口の数と同じぐらいある思想の中で一定の均衡を保っています。それは政策を主導する与党と文句ばかり言う野党の関係の中でも日々の生活はとりあえずどうにかなっているという絶妙のバランスがそこに存在しているとも言えます。ところが主導者が変わり、「はい、今日からはこうなります」と言わると10中8,9、反発が来るのです。高市さんはそこを甘く見たのだと思います。

私が再三言っているように彼女の失敗はそれを露呈するような人事政策から始まります。今では税調会長を刷新した人事も苦戦しそうだ、とみられています。

もう1点、高市さんのスタンスに反発が多いのは自分の保身で人事を固めすぎた点でしょう。誰でもお友達人事というのはやるのですが、高市さんの人事は自分の考えを貫いている人事だと思えないのです。なぜ、第一歩から間違えたか、これは簡単で彼女には真の盟友がいなかった点に尽きると思います。

アメリカのように権力を持ち合わせ、崇高さすらある絶対的主導者はその発言力の影響は凄まじいものがあります。Tony Robbinsは自己啓発/コーチングの業界で初のビリオネア―であり、圧倒的なカリスマ性があります。故に人心を捉えやすいとも言えます。ところが日本の場合は八百万の神の世界ですから人の心をつかみ、何かを変えるのはとてつもなく難しいのです。強い指導者だった安倍晋三氏ですら極めて大きなアンチ勢力があったことはいうまでもありません。

残念ながら日本の政治家に今、強い指導力を持った方はいないと思います。小さなグルーピングの中で「おらが大将」状態になっています。ただ政治家全員がダメなわけではないのです。熱い思いや優れたリーダーシップを潜在的に持っている政治家は必ずいるはずです。そういう人が発掘できるか、日本の政治力が示されるかはそこにかかっているとも言えます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年10月14日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。