全身性エリテマトーデス(SLE)の新薬:投与すべきか、控えるべきか、悩ましい?

New England Journal of Medicine誌の10月16日号に「A Phase 3 Trial of Telitacicept for Systemic Lupus Erythematosus」というタイトルの論文が報告されている。自己免疫病であるエリテマトーデス(SLE)に対するテリタシセプト(Telitacicept)という薬剤の第3相試験の結果を報告している。

免疫システムは外敵(ウイルスや細菌など)からわれわれの体を守る役割を担っているが、種々のきっかけで自分自身の細胞や組織を攻撃する免疫系が活性化されて自己を攻撃する。SLEは、圧倒的に女性に多い病気で(男女比は1:9)、発症年齢も20〜40歳代と比較的若い。

この病気の発症には遺伝的要因に加えて、紫外線、感染症、ホルモンなどが関わるとされている。遺伝的要因としては、HLA(ヒト白血球抗原)との関連が指摘されており、特に日本人ではHLA-DRB1*15:01タイプを持っているとリスクを増すようだ。このHLAタイプは抗体産生に関わるものであり、実際、SLEでは抗核抗体、抗DNA抗体の上昇が知られている。

特徴的な症状としては、頬部の蝶形紅斑(ちょうけいこうはん)で、鼻の付け根を挟んで、両頬に蝶形の赤い発疹ができてくる。これらに加えて、関節炎、胸膜炎(胸の痛み、胸水)、心膜炎、腎炎などの炎症が出現する。

テリタシセプトは、Bリンパ球刺激因子と増殖誘導リガンドの機能を抑える薬であり、抗体を作るB細胞の働きを抑制する効果を持つ。標準治療に加えてテリタシセプト投与の有無で比較検討された中国での臨床試験結果がこの論文で報告された。

335人がテリタシセプト群(167人)と偽薬群(168人)に分けられ比較が行われた。52週時点で、症状の改善が見られた割合は、テリタシセプト群(67.1%)と偽薬群(32.7%)であり、有意な差が認められた。ただし、治療関連有害事象は、テリタシセプト群(約75%)の方が偽薬群(約50%)より、多く認められた。特に多かったのは、上気道感染(31.7%対19.0%)や注射部位の反応(12.6%対0.6%)、そして免疫グロブリンの低下などであり、抗体を産生するBリンパ球の抑制が顕著であった。

下記の図は、患者さんの薬に対する反応性を大きく4分類した図である。効果と副作用の有無で4分類したが、左上のように、効果があり、副作用がなければ投与しても何の問題もない。右のように効果がなければ投与する意味がない。ほぼすべての薬は左下の図のように両方プラスだが、効果が副作用よりも格段に優れていれば、あるいは、少々副作用が強くとも他に選択肢がなければ投与するメリットがある。

しかし、このテリタシセプトは悩ましい。効果も十分にありそうだが、副作用もかなりある。しかも、一般的に、患者さんによって、効果と副作用の比が大きく異なる。これを予測することこそ、オーダーメイド医療(プレシジョン医療)の真骨頂だが、うまく分類できるのか?


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2025年10月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください