高市政権では、防衛費を含めてばらまき政策のオンパレードである。一部に引き締め策はあるものの、全体としてはばらまき全開の「バラマキノミクス」といえるだろう。
防衛費についても、岸田政権が政権公約として掲げ、石破政権が取り下げたGDP比2%を今年度中に実現するとしている。これを実現するのであれば、赤字国債の大増発が必要だ。
当然、プライマリーバランスの実現は不可能である。来日するトランプ大統領が3.5%を要求するとされており、そのまま従うのであれば、さらに国債発行が増えることになる。
そのほかにもばらまき政策が目白押しである。さらに消費税を下げるとまで言っている。このままでは、毎年数十兆円規模で国債の増発が必要になるだろう。
そうなれば、海外の格付け機関は日本国債の格付けを下げるだろう。また、投資家も利率を上げなければ国債を引き受けなくなる。日銀が引き受ければ、今度は円の評価が下がる。
その結果、1ドル=200円、あるいは250円になる可能性もある。トラス・ショックならぬ「高市ショック」が起きる危険性は高い。
防衛費を上げても、円安とインフレで相当部分が目減りする。海外から調達する装備品はもちろん、国産装備にも多くの海外コンポーネントが使われており、それらの価格も上がる。燃料や光熱費も同様だ。たとえば3割の円安が進めば、その分の防衛費増額は帳消しになる。
さらに言えば、ドル安をもくろむトランプ政権からも批判されるだろう。
高市政権は今年度中に防衛費をGDP比2%にする算段だという。本年度の防衛予算は約8.8兆円、GDPは600兆円であるから、2%にするには12兆円が必要となる。ざっくり言えば、3.2兆円の増額が必要になる計算だ。
その金はどこから湧いてくるのか
今でさえ屁理屈をこねて5,000億円以上の建設国債を防衛費に充てている。まさに「借金軍拡」である。
そのくせ、5,000億円以上の「ふるさと脱税」ことふるさと納税をやめる気はさらさらない。
まさか財務省の裏に金の成る木が群生しているわけでもあるまい。
そして、片山財務大臣にそれを止める気はないようだ。
片山大臣といえば、防衛担当主計官時代に74式戦車の迷彩塗装用ペンキ代すら認めなかったという「武勇伝」もあるが、ずいぶんと気前が良くなったものである。
ぶっちゃけた話、今すぐ日本に危機が迫っているわけでもない。GDP比2%という数字は、安倍晋三が政権奪取のためにぶち上げた“目くらまし”である。
必要な金額や根拠があっての数字ではない。金額を先に増やしてから「中身はあとで決めればいい」とうそぶいていたのだから、根拠など最初からない。しかも「国債を発行すればいくらでも軍拡できる」とまで主張していた。
ところが、本来中立であるべき防衛研究所の高橋杉雄らが、安倍晋三の靴をなめるように同じことをメディアで宣伝した。しかもメディア出演では「個人の見解」と肩書を逃げ道に使った卑怯者たちである。防衛研究所の権威を利用して「個人」と称し、安倍晋三のために世論操作を行った。これは犯罪的行為だと私は思う。
高市政権は情報機関の創設を掲げているが、政権のために事実をゆがめるような組織になるのではないか。
安倍派(清和会)は100名を超える党内最大派閥だったため、安倍が死んでも岸田政権はその機嫌を取るために防衛費2%を選挙公約に盛り込んだ。
ところが、石破氏に確認したところ、当時GDP比2%を我が国の算定方式で計算するのか、NATO方式で計算するのかすら決まっていなかったという。
これを問題視したのは私くらいだったが、その後、財務省が財政制度等審議会の資料でこの点に触れるなど、問題として扱われるようになった。
算定基準すら決めていなかったものを、与党が選挙公約にしたのである。政治をなめているとしか言いようがない。そのため、石破政権ではこの選挙公約を取り下げた。これはかなり重大な話だが、記者クラブ、特に「専門家」を自称する政治部記者の誰一人として指摘しなかった。政治部記者は政策に興味がなく、政局だけを追っているからだろう。
GDPの2倍以上の財政赤字を抱えたまま、さらに野放図に赤字を増やせば、円の信用は地に落ちる。そのような状態で戦争や大災害が起きたとき、どこの国が日本に金を貸してくれるだろうか。
どうしても軍拡したいのであれば、「国家の危機」だと国民を説得し、消費税を20%に引き上げ、老人医療費は2割負担、生活保護世帯にも1割負担を求める。当然、ふるさと納税は廃止し、大企業が恩恵を受けている税制優遇も全廃するくらいの覚悟が必要だ。
「国家存続の危機」なのだろう? それくらいはできるはずだと私は思う。
高市氏の所信表明案判明 防衛費「GDP比2%」今年度達成へ前倒し
2026年末までに前倒しで改定することを目指し、検討を開始すると明記。27年度に防衛費を対国内総生産(GDP)比2%に増額するという現行の目標達成についても補正予算と合わせ、2年前倒しして今年度中に実施する方針を示した。
(後略)
高市氏、安保3文書の改定前倒しの方針 防衛費増の財源問題は深刻
高市早苗首相は21日の記者会見で、さらなる防衛費増を視野に入れた安全保障関連3文書の前倒し改定を指示する方針を示した。トランプ米大統領の訪日を目前に控え、日本政府として主体的に防衛費増の意思を示す狙いがある。
(中略)
防衛費増に対応するためには新たな財源をどう確保するかという深刻な問題に直面する。日本の財政余力が低下する中、現状の2%増額でさえも財源の一部として見込まれる所得税増税の開始時期は先送りされたままとなっている。
高市氏は閣議直前に開いた記者会見で、「物価高への対策をしっかりと講じていく」としたうえで、ガソリンの旧暫定税率(1リットルあたり約25円)を「速やかに廃止する」と述べた。トランプ関税の影響を緩和するための対策も盛り込む意向だ。
(後略)
基礎収支、遠のく黒字 「責任ある財政」試金石 経済対策指示 24年度並み「補正14兆円」なら赤字
2025年度の補正予算の歳出規模が仮に24年度補正と同等の場合、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)は26年度の黒字予想が一転して赤字となりかねない。
政府は6月にまとめた経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に「25年度から26年度を通じて可能な限り早期」のPB黒字化を目指すと記した。内閣府によると、25年度は3兆2千億円の赤字、26年度は3兆6千億円の黒字を見込む。PB黒字が実現すれば、財政健全化の一歩と言える。
高市政権が近年と同規模の大型補正を組むようならば、赤字に陥る公算が大きい。秋に編成する補正予算は予算執行の多くが翌年度に持ち越されるため、25年秋に補正を組めば、一部は26年度の収支悪化要因になる。
(後略)
きしむ日本国債 インタビュー編 財政規律、守る姿勢を 作家・幸田真音氏 アベノミクスの安易な継承は間違い
積極財政やアベノミクス継承を掲げる高市早苗氏が首相に就任した。
「『責任ある積極財政』の『責任』の根拠を明確に示さないと、財政規律は緩む一方だ。膨大な債務残高を抱えるなか、声高に積極財政を唱えるのは自殺行為に近い。
(中略)
「海外投資家の市場参加も増えてきたが、彼らはロジカルに動く。財政ファイナンスに対する懸念が高まるなどすればすぐに引き揚げるだろう。

高市早苗首相 首相官邸HPより
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編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2025年10月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。








