日本は外国人留学生天国になるか?:諸外国から見た日本の盲点

アメリカやカナダの大学は数年前までは外国人留学生で潤っていたと言っても過言ではありません。留学生は自国民学生に比べて3倍かそれを超えるほどの学費を支払うケースが多いのですが、それでも北米の大学で学びたいという海外学生とそれを支援する親が「金に糸目は付けず」という状態でした。

思い出すのは1997年の香港返還直前にバンクーバーに押し寄せた香港人です。もちろん彼らはカナダの永住権が欲しかったわけですが、その理由付けの一つに子供の教育は北米で、という熱心な親御さんたちの支えがありました。親御さんたちは子供達には中国に同化していく香港にいるよりも北米でのびのび社会をエンジョイしてもらいたいという気持ちがありました。

中国人同様、香港人も教育熱心です。彼らは優秀で親の教育に対する情熱は今でもすさまじいものがあります。日本を含む東アジアの人たちは理数系が北米の人たちに比べ相当能力が高いとされます。これが後天的なものなのか、先天性があるのか、研究者のご意見を聞いてみたいものですが、事実は事実です。例えばかなり前ですが、当地の新聞広告に一面全面の広告があり、今年の会計士試験合格者の集合写真が出ていたことがあるのですが、10中8,9がアジア人の顔だったのは今でも鮮明な印象としてよく覚えています。

その北米留学は近年、アメリカ、カナダ共に留学生の絞り込み政策が行われたことでガクッと減ります。カナダの場合は2023年に外国人絞り込み政策がスタートし、留学ビザ発行数を2年で約50%減でキャップする(=蓋をする=一定数以上発給しない)政策としたため、大学経営が成り立たないところまで追いやられたのです。

当然、北米の大学経営も大変なのですが、留学希望者からすれば代替留学先を探します。そこで今まで全く陽の目を見なかった日本が浮上してきています。理由は地理的にアジア諸国から近いこと、物価水準が先進国では圧倒的に低く、学費についてはアメリカの1/5程度で収まるケースすらあること、そして最大の理由は留学しやすい、つまり日本の大学に入学しやすいのであります。

外国人が日本の大学に留学する場合、日本人向けの試験制度とは全く違う方式になります。それは日本留学試験(= EJU = Examination for Japanese University Admission for International Students)に合格することです。共通一次など全く関係ありません。そしてこのEJUに合格すると800近くある日本の大学の約6割に入学できる第一関門を突破できます。国立大学はほぼ全部この制度下にあります。

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ではこのEJU、どんな試験なのか、と言えば文系、理系で科目は違いますが、日本語能力配点と学力配点が半分ずつ。そして学力配点の試験は英語でも受験可能です。合わせて800点満点ですが、700点程度で上位国立大学、650-700点で最上位私立大学、600-650点で上位私立大学への入学のパスとなります。

そして二次試験は各大学が実施する試験ですが、学科試験はなく、小論文と面接のみです。EJUの点数配分の5割が学科ですが、外国人向けに多少易しくしているとされ、教育熱心な東アジアの生徒には楽なクリアパスであとは日本語能力次第ということになります。日本語レベルとしてはN1からN2ですのでこれはレベルが高いと言えます。

さて、ここからが問題です。以前から何度も申し上げているように日本の大学は学生数が減少する中、経営難に陥っているところが増えています。また総合大学や人気大学でも学生数確保が大学経営のバロメーターでありますので一定の水準を維持しながら優秀な学生集めの熾烈な戦いになっています。その中で数年前に問題になったように一部の学校は教育運営実態が分からず、就労目的になっている場合もあります。さすがこういう学校は当局から目をつけられやすくなったのですが、一般大学が外国人受け入れ枠を増やすことは大いにあり得ると思います。

また北米でそうであったように外国人留学生に2倍、3倍の学費を課せるとすれば大学側は好都合です。では学生とその親御さんはどうかと言えば彼らも喜んでそれを払うと思います。理由は学生がそのまま日本で就労ビザ、ないし永住ビザを取りやすい環境が揃っているからです。

言い換えると諸外国にとって日本は盲点の一つで、日本の大学に入れば中国や韓国では卒業後に苦しむ就職にもありつきやすく、おまけに長期滞在できる権利までついてくるわけです。これは恐ろしくおいしい話です。私がカナダで若い人から「ずっと居たい」という相談をうければ大学、ポスグラビザ(post graduation visa)を取得し、その後、就労ビザに切り替え、永住権を取るというゴールデンコースが日本の場合、より低いハードルで、より早く出来るのです。

教育だけ見るとこれは一長一短で、日本の大学のクラスが国際化すれば様々な意見がぶつかり、質は向上しやすくなると思います。ただ、それが教育界が求めているものなのか、大いに議論の余地はあるそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年10月29日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。