「ゴールデンドーム」対「ブレヴェスニク」:米露軍事開発レースの激化

トランプ米大統領は5月20日、次世代のミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」を発表した。同構想は、米本土をミサイル攻撃から守るために、宇宙空間に衛星や兵器を配備する次世代ミサイル防衛システムだ。約1750億ドルを投じ、3年以内の完成と運用開始を目指している。これまでのシステムでは対抗できなかった中国やロシアのミサイル戦力に対し、最先端技術を駆使して宇宙などから迎撃する野心的な構想だ。実現すれば、世界の戦略環境に広範囲の影響を及ぼすことは必至だ。

プーチン大統領、軍服で統合軍司令部を訪問し、ゲラシモフ参謀総長らと会談 2025年10月26日 クレムリン公式サイトから

ちなみに、ゴールデンドーム構想の先駆けはレーガン大統領(当時)が1983年3月に公表した「戦略防衛構想(SDI)」だ。同構想は当時「スターウォーズ計画」と呼ばれた。

一方、プーチン大統領は今月26日、長距離核ミサイル「ブレヴェスニク」のテストに成功したと述べた。「ブレヴェスニク」(9M730)は、ロシアが開発中の原子力推進式巡航ミサイルだ。原子力エンジンによるほぼ無限の長距離飛行が可能で、アメリカのミサイル防衛網を突破することを目的としている。北大西洋条約機構(NATO)では、9M730は「SSC-X-9スカイフォール」というコードネームで呼ばれている。

プーチン氏が2018年、核弾頭搭載可能な長距離ミサイルの開発を初めて発表した時、専門家はこのプロジェクトは実現不可能だと見なしていた。しかし、ゲラシモフ参謀総長によると、今月21日に「決定的なテスト」が完了したという。そして「クレムリンは核ミサイルの配備準備に入っている」というのだ。

軍事大国の米国とロシアの軍事開発レースが激化してきた。トランプ氏の「ゴールデンドーム構想」では、敵国の核ミサイルを宇宙空間で撃ち落とせる全段階で迎撃する多層的システムだ。「ゴールデンドドーム」の目玉は、これまで技術的に困難だったブースト段階のミサイルを宇宙から迎撃することだ。

ロシアが開発した9M730ミサイルはいかなる防衛システムも回避できるという。報道によると、10月21日、「ブレヴェスニク」のテストが行われた。ゲラシモフ参謀総長によると、ミサイルは15時間空中に留まり、1万4000キロメートルを飛行した。同参謀総長は「これが限界ではない。原子力推進のミサイルは無制限に飛行できる。そして核弾頭を搭載できる新ミサイルだ」というのだ。

ロシアが実験に成功した原子力推進の核ミサイルの射程距離は事実上無制限で、軌道が予測不可能なことから、現在および将来のミサイル防衛システムも探知して撃ち落とせないという。プーチン大統領は「これは世界で他に類を見ない兵器だ。重要な試験は完了した」と強調している。

米国の「ゴールデンドーム構想」が実現できるまでにはまだ時間がかかる一方、ロシアの核ミサイルは実験段階で成功し、配備準備にあるという。ロシア側の発表が事実とすれば、ロシアが米国を先行していることになる(米国は核ミサイル開発を継続しているが、2022年、核巡航ミサイル開発を中止すると発表した)。

SDIによる技術競争がソ連を追い込み、米国の冷戦勝利の原動力になったが、今回はロシアの核ミサイルの登場で米国は軍事的に初めて守勢に回ることになるかもしれない。プーチン大統領は「ブレヴェスニク・ミサイルの実験は西側諸国への警告だ」と豪語している。

なお、トランプ大統領は27日、訪日途上のエアフォースワン機内で、ロシアの新型原子力巡航ミサイルの実験について「不適切だ」と指摘、「ミサイルのテストを止め、ウクライナの戦争を停止すべきだ」と述べている。

アラスカの米ロ首脳会談、クレムリン公式サイトから 2025年8月15日


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年10月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。