日本からの記事をフォローしていると、秋田県や山形県などで熊が人間が住んでいるエリアに降りてきて人的被害が出ている、というニュースがあった。オーストリア国営放送(ORF)のウェブサイトでも日本の熊の話が掲載されていたぐらいだから、かなりの数の熊が人家近くにきて食べ物を物色しているのだろう。

子供たちに愛されるテデイベア、2025年8月23日、「日本テデイベア協会」公式サイトから
読売新聞オンラインには「秋田県の鈴木知事は28日、防衛省を訪れ、小泉防衛相に熊捕獲の支援を求め、自衛隊の派遣を要請した。小泉防衛相は『深刻な状況と受け止めている』と発言し、陸上自衛隊の自衛官らを秋田県庁に向かわせた。同日夕、今後の支援内容を話し合う初めての協議が県庁で行われた」という記事が掲載されていた。
「アゴラ言論プラットフォーム」で軍事ジャーナリストの清谷信一氏が「ぶっちゃけた話、中国やロシアや北朝鮮よりクマの方が現実的な脅威です。実際に国民が死傷し、農作物が荒らされる被害が無視できないレベルです。国はこの事態を軽く見てきました」と書いている。

アルプスの小国オーストリアではオオカミが農家を襲い、羊や鶏などを襲撃する事件が多発し、オオカミをいかに退治するかでメディアで一時期議論が沸いた。狩猟家に射殺を要請すべきだというと、動物愛護グループから批判の声が飛び出した。また、牧草地の横の散歩道を犬と散歩していた女性が牧草地で草を食べる牛の群れの傍にきた時、母親牛が突然女性を襲撃したことがあった。母親牛は子牛を守るために攻撃したのではないかといわれた。
新型コロナウイルスのパンデミックの時、英国でヤギが群れをなして街に出てきたことがあった。コロナ時代、ロックダウンが実施され街の路上から人の姿が消えた。いつも餌をくれる人がいなくなったので鳩もお腹を空かして苦しんだ。また、ロシア軍のウクライナ戦争では、大砲やミサイルの音が日常茶飯事となったウクライナの街のカラスは、大砲の音を聞いてももはや驚かなくなった、といった様々な鳥や動物界の異変が報じられた。
最近、家人が家の近くを散歩していた時、一匹のキツネに出会った。キツネの目と家人の目が合った時、「キツネは大きくなかったが、その眼光は野生の目で、怖くなった」という。人間に飼われている犬や猫とは違い、野生の動物の場合、小さな動物でも野生的な眼光で相手を睨む。それが熊だったら、人間は恐怖に襲われるだろう。
女性に「あなたが一人で森の中を歩いていた。その時、あなたは男性に会うのと、熊に会うのとではどちらを選びますか」という質問が出された。すると、大多数の女性は「熊です」と答えたという調査結果がある。女性にとって、人間の男性より動物の熊のほうが安全だと感じているのかもしれない。日本の熊の話を聞いていたならば、女性たちは果たして「熊」と答えただろうか。
ところで、日本の熊の話を聞いた時、凶暴なイメージが広がって熊の人気が落ちるのではないか、と思った。縫いぐるみでは子熊の縫いぐるみが人気がある。当方も最初の子供が生まれた時、ミュンヘンの百貨店で子熊のぬいぐるみを買ったことを覚えている。その熊の縫いぐるが少なくとも日本では売れなくなるのではないか。
ちなみに、縫いぐるみの中でテディベアは圧倒的に人気がある。1902年の秋、米国のセオドア・ルーズベルト大統領は熊狩りに出かけた。傷を負った子熊を見つけたので、かわいそうだから助けた。その美談が記事で報じられ、ルーズベルトの愛称「テディ」を付けた子熊の縫いぐるみが売り出されると大ヒットし、世界の子供たちに愛されてきた。なお、ルーズベルトの誕生日10月27日は「テディベアの日」だ。

秋田県知事から「ツキノワグマによる被害防止対策への支援に係る緊急要望」を受ける小泉防衛大臣 防衛省HPより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年10月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






