SNSを使うほど世界は歪んで見える

黒坂岳央です。

最近、「世の中がギスギスしている」「極端な意見ばかりが増えた」と感じてはいないだろうか?「最近、世の中が混沌としており終焉に向かっているという感覚がある人は要注意だ。実はその感覚こそ、SNSの歪んだ鏡が作り出した可能性がある。

「ファクトフルネス」では、世界は統計データ上ドンドン平和に、良くなっていることを示した。時が経ち、2025年が終わろうとしている今も大局は変わらない。極度の貧困率の減少、乳幼児死亡率の低下、識字率の向上といった長期的な統計指標は、一時的な危機の影響を受けつつも、着実に改善の軌道を辿っている。

我々は本能やメディアの偏重により、世界を悲観的に見過ぎる傾向がある。だが実態と実感には大きな乖離がある。世界をおかしく見せているものの1つがSNSなのだ。

Marco_Piunti/iStock

SNSは世界の見え方を歪める鏡

Science Directに掲載されたInside the funhouse mirror factory: How social media distorts perceptions of normsによると、「いかにSNSが感覚を歪めるか?」という内容が書かれている。具体的には次のようなものだ。

・アクティブアカウントのわずか3%が、全コンテンツの33%を生み出している。
・オンライン上の紛争の74%は、コミュニティのわずか1%で発生している。
・0.1%のユーザーが、フェイクニュースの80%を共有している。
・政治的投稿の97%は、最もアクティブな10%のユーザーによって発信されている。

我々がSNS上で目にする「世の中の常識」や「当たり前の意見」「差別・弾圧・迫害」は極端な少数派のユーザーによって作成され、圧倒的な物量で流れ込んでいる結果である。

そうしたものを日々、目の当たりにすることによって「世の中は混沌としている」「今はこうした考えが常識的なのだ」といった歪んだ感覚が植え付けられてしまうわけだ。

普通の人はSNSなんて使わない

「ビジネスアカウント、情報収集専用アカウントを除けば、普通の人ほどSNSは使わない」という傾向にあるだろう。

一般の人がせっせと投稿するSNSはせいぜいLineくらいであり、後は情報収集にYouTubeやInstagramくらいだろう。普通の人は不満を感じたり、悩みがあればSNSに投稿するより、まずリアルの人間関係のコミュニケーションで完結する。だから「普通の人」はSNSを必要としないし、そもそも使ったことがない人も多い。

結果として、SNSには「極端な意見でも発言を止めない人」だけが残り、静かに見ている大多数の穏健な人々は「沈黙する多数派」となる。だが、沈黙する多数派は過激派の意見ばかり晒され続ける。この構図がオンラインの規範が現実から乖離する最大の原因なのだ。

そしてこの歪みはSNSのアルゴリズムによってさらに増幅される。

SNSは、エンゲージメント(反応)を最大化するように設計されているため、穏健でニュートラルな意見よりも、感情的で、驚きや怒りを誘う極端なコンテンツを優先的にレコメンドする。

筆者は記事執筆のための情報収集としてアカウントを作成していくつかSNSを使っているが、総じて見たくもない悲劇的なニュース、知らない人同士の争い、差別や迫害を助長する過激な意見ばかりがレコメンドされる。そのたびに非表示設定を選んでいるが、それでも新着投稿には自分がまったく望まない刺激的な情報ばかりが並んでしまう。

この肌感覚からもわかるのだが、SNSはユーザーの希望するものを見せるより、相手の可処分時間を使わせる投稿をレコメンドするのだ。その結果、現実世界のどこよりもSNSは治安が悪くなっている。

SNSは一定の距離を置いて使う

誤解のないようにしたいのは、筆者はSNSそのものを全否定はしない。

実際、SNSを通じて極めて有益な情報や意見、考え方や価値観に触れてポジティブな影響を受けたり、有益な発信者から自分一人ではたどり着けない知見に触れることもある。気を付けて使えばSNSは確かに大変便利だ。

だが、薬である一方でSNSは毒の要素も介在するから難しい。非常に有益な投稿のすぐ次に気分を萎えさせる悲劇的なニュースや、どうでもいい論争やケンカ、詐欺や暴力的なコンテンツを見せられる。少なくとも「フォローしている相手からだけの投稿」に見る内容を絞るべきだろう。

そしてSNSで極端な意見を目にした際、反射的に多数派だと見なすのをやめ、「これはわずか3%のユーザーが生み出した偏った意見かもしれない」と、常に疑う姿勢を排除しないことだ。

極端な意見はノイズであり、現実の常識ではないと、意識的に情報の重みを下げることが重要である。SNSの発信を「これが世界の縮図だ」とばかりに受け取ると、使えば使うほどドンドン現実世界から遠ざかっていく。

SNSは、情報という光を反射し増幅する鏡である。しかし、それはおかしな鏡であり、そのまま眺めていては現実の姿を見誤る。SNSの最大のリスクは、歪んだ性質を知らずに鵜呑みにすることにあるのだ。

 

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。