
今月1日にSNSで発された、トランプ大統領の「G2」発言が波紋を広げている。韓国の釜山で10/30に行ったばかりの、習近平主席との米中首脳会談を踏まえたものだ。

トランプ氏が、米中関係を「G2」と表現した真意は不明だ。ただ中国は、米中が並び立つ「G2」態勢下で、米中が互いの勢力圏を認め合う関係を目指し、米中で太平洋を二分割する案にも言及している。トランプ氏の発言は、同盟国を動揺させる可能性がある。
読売新聞、2025.11.2
(強調は引用者)
なんで韓国で会ったかと言えば、翌日の10/31からAPEC首脳会議があったからである。で、その31日には高市早苗首相も習氏と会談したが、日本のメディアは笑顔とか握手とか、ルックスの話ばかりしていた。

会談時の、高市首相の習氏との握手の仕方が「気になった」と言及。「……胸も張り、相手のペースにのまれないような握手の仕方を、あえてしていたな、という印象です」と語った。
テレビ朝日・千々岩森生記者
(2025.11.1の中継で)
いや、アイドル評論じゃないんだから(笑)。
初の女性首相ゆえのボーナスもあり、いま高市政権の支持率はきわめて高い。なので、海外の要人と会うごとに「うおおおSANAE流のパフォーマンス!」とご祝儀コメントを出す人たちには、ホントの国際政治のプロも呆れているようだ。
高市首相のベタベタの称賛に忙しく、評論家や学者の方々も、日米首脳会談で(高市政権側が用意していたはずの)「FOIP」「クアッド」に関する参照が一切なかったことに、触れる余裕がない。あるいはそんなタブーにふれたら、「虚栄と独善」にやられて「闇落ち」した「親露派」の「老害」扱いか。 https://t.co/z4IOcyNU4Y
— 篠田英朗 Hideaki SHINODA (@ShinodaHideaki) November 3, 2025
もともと高市氏は、固定したファンやアンチが多い政治家だった。彼女を引き立てた安倍晋三・元首相を好きだった人は、高市政権を「3度目の安倍政権」のように応援する。
逆にかつてのアベ嫌いは、サナエの政治も嫌いだ。亡くなってもなお「アベ政治を許さない」での反高市デモは、どうかと思うけど(苦笑)。

しかし2012年の末に発足し、長く続いた2度目の安倍政権と、スタートしたばかりの高市政権は、そもそも前提が180度違う。具体的には、
① 2012年に、国内で問題とされていたのはデフレ(安い物価)と円高(輸出に不利)である。25年の問題は、インフレ(物価が高い)と円安(輸入品がもっと高い)である。
② 2012年の米国はオバマ/バイデンの政権で、リベラルな彼らは世界の権威主義国に批判的だった。25年に発足したトランプ/ヴァンスの政権は、プーチンや習近平とも平気でDEALする。
くらい逆なのだから、「うおおお安倍サンを継ぐのは高市!」とか叫んでも、もう意味がない。むしろアベを否定する(=アンチ高市好みな)態度や政策が、これから必要になるかもしれない。

その一方、あまりよくない意味では、第2次安倍政権と高市政権が置かれた位置は似ている。前者は①2011年の東日本大震災、後者も②2020年以降の新型コロナウィルス禍という、災厄と大混乱の後に発足した点で共通だ。
①も②も、戦後日本という “国のかたち” のために、被害が増幅された災害だった。震災では(とりわけ原発絡みの)補助金に依存した地方の空洞化や、「職があること」でしか生活を維持できない社会保障の死角である。
コロナ禍では自治体や病院に「お願い」しかできず、誰の責任かが不明になる国の制度の限界だ。安倍氏自身が当時から言っていたほか、没後に刊行された『安倍晋三回顧録』も、えんえんその恨み言で埋められている。

何よりも国民の皆様の行動変容、つまり、行動を変えることが大切です。
特別措置法上の権限はあくまで都道府県の知事が行使するものでありますが、政府として、関東の1都3県、大阪府と兵庫県、そして福岡県の皆様には、特別措置法45条第1項に基づき、生活の維持に必要な場合を除き、みだりに外出しないよう要請すべきと考えます。
2020.4.7、緊急事態宣言発出時
政府は「考えます」と言うしかなかった
(段落を改変)
が、こうした真の問題ほど、スルーされる。
解決のため “国のかたち” 自体に手を入れると、戦前回帰の保守反動ダー!とか、逆にサヨク的な秩序破壊ダー! として、左か右のどちらかか、最悪両方から叩かれる。つまり、めんどくさい。
なので、2012年の安倍政権は「リフレ政策」、25年の高市政権は「積極財政」のような、聞こえがよくなぜか非自民ほどファンの多いフレーズを、めくらましに打ち上げる。結果として、本当の問題の解決は、遠ざかる。
保守だけでなくリベラルも “釣れる” パッケージを掲げたことが、安倍長期政権の秘訣であるとともに、震災が問うたものを見棄てることにもつながった。例によって平成のことは、なんでも書いてる本にいわく――

経済論壇で執筆する狭義のリフレ派のみならず、平成世代の書き手にファンの多い政策が日の目を見たことは、市場の反響も相まって「なにはともあれ、民主党時代よりはましだ」とするムードを、世相に浸透させていきました。
(中 略)
第二次安倍政権の成立をもたらした2012年12月の総選挙をふり返って、当時の野田佳彦首相は「原発は争点になると思って、われわれはかなり街頭などで訴えたのですが……聴衆の反応で、優先順位が変わったのです。経済が一番になった」と回想しています。それほど野党時代から安倍さんが掲げてきた金融緩和への期待は大きく、ポスト3.11の論客と呼ばれた識者の多くも、「リフレをやってくれるなら安倍支持」に傾いていました。
419・427-8頁
野田氏の発言はこの本より
経済も国際政治も、この2012年とは現状が違う。でも、本質をスルーする姿勢の一点だけは、いまも当時と同じなのかもしれない。
そんな高市政権と、どう向きあうか。ふだんはわりに主張が重なる、浜崎洋介さんとの “保守とリベラル” 対談で、珍しくガッツリぶつかりつつ議論した。収録時期の関係で、G2の話は出ないけど、見どころは十分と思う。
政策にかかわる学者はおろか、SNSの野次馬識者まで「逆の立場とは議論しない!」と公言して恥じない時代、貴重な番組になったと自負している。ぜひ、後日紹介する後編とあわせて、多くの人が見てくれたら嬉しい。
参考記事:


(ヘッダーは2013年、長期政権を決めた参院選大勝を喜ぶ安倍首相と高市政調会長。東スポより)
編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2025年11月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。






