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令和8年10月から経過措置の控除割合の引き下げ
消費税について、インボイス制度が導入がされてから既に2年以上が経過しています。
インボイス制度導入によって、免税事業者が商取引から排除されることがないよう、免税事業者との取引については、いきなりその全額の消費税の控除を認めないのではなく、段階的にその控除できる割合を引き下げるという「経過措置」が講じられています。
その経過措置による控除割合は、令和8年10月に、これまでの消費税相当額の80%から50%へ引き下げがされます。
そのような改正の前後では、毎度のことながら、どこを境にして変更をすればよいのか悩むものです。
そこで、今回は、この免税事業者からの仕入れ等に対する経過措置の控除割合引き下げの前後での取り扱いについてまとめてみようと思います。
免税事業からの仕入れ等についての経過措置
まず、基本的な仕組みを確認しておきましょう。
インボイス制度では、原則として適格請求書(インボイス)を発行できない免税事業者等からの仕入れについては、消費税の仕入税額控除ができません。
ただし、急激な変化を避けるために「経過措置」が設けられています。
具体的には、以下の期間の仕入れ等については、それぞれ仕入税額相当額に一定割合を掛けた金額だけは、消費税の仕入税額控除が可能なのです。
| 期間 | 控除割合 |
| R5.10.1からR8.9.30まで | 80% |
| R8.10.1からR11.9.30まで | 50% |
| R11.10.1から | 控除不可 |
経過措置による控除割合引き下げ判定のタイミング
では、令和8年10月1日をまたぐ取引について、80%と50%のどちらの控除割合を適用すればよいのか。
それは、「課税仕入れを行った日」で判断するということです。
その課税仕入れを行った日というのは、物の引渡しを伴うものと役務提供のみのものとで次のように判定がされるのです。
(1) 物の引き渡しがある場合
商品の仕入れや資産の購入(資産の譲受け)の場合、課税仕入れの時期は原則として「引渡しのあった日」です。
さて、継続的な取引がされる場合、納品の都度、請求書が発行されることはなく、締め日ごとにまとめて請求書が発行されることになります。
では、20日締めで令和8年9月21日から令和8年10月20日までの1ヶ月分(ここでは「10月分」といいます)の商品仕入れについては、どのタイミングで、経過措置による控除割合を判定するのでしょうか。
商品の引き渡しが伴う取引では、その商品の引き渡しが完了した日(検収をした日など)により、課税仕入れが行われたものとされる。
つまり、一つの「10月分」という請求書であったとしても、その商品の引き渡しのあった日が、令和8年9月21日~9月30日のものについては控除割合80%、令和8年10月1日~10月20日のものについては、控除割合50%と区分けをする必要があるのです。
(2)役務提供の場合
役務の提供を受けた場合には、その課税仕入れの時期は、原則として「役務の全部が完了した日」です。
例えば、あるサービスの提供を受ける場合、そのサービスの提供の対象期間が、令和8年9月21日から1ヶ月間分(ここでは「10月分」といいます)とされているのであれば、その役務提供がすべて完了するのは、令和8年10月20日となります。
この場合には、役務提供の全部が完了したのは、令和8年10日20日であり、その時点では、既に経過措置による控除割合は50%となっています。
ですから、そのサービスの「10月分」の業務委託費全額については、その仕入税額相当額の5割が仕入税額控除の対象となります。
なお、継続的な役務提供についても、契約により、月ごとの契約となっているのであれば、その月の対象期間が終了する日をもって役務提供のすべてが完了したとして、その日で経過措置による控除割合を判断することになります。
短期前払費用については混乱回避で割り切りも
判断に悩むのは、役務提供についての年間契約のようなものです。
法人税では、前払費用のうち、支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合、その支払った額を継続して支払日の属する事業年度に損金算入することが認められています(法基通2-2-14)。
これを「短期前払費用の特例」と呼びます。
消費税でも、この取扱いの適用を受ける短期前払費用に係る課税仕入れは、その支出した日の属する課税期間の課税仕入れとして計上できます(消基通11-3-8)。
たとえば、3月決算法人が、毎年1月に1月から12月までの1年分の保守料金を支払っている場合、その全額を支出時の事業年度の損金および課税仕入れとして算入することができるのです。
では、その短期前払費用の対象期間の中で、経過措置の控除割合の引き下げが行われた場合はどうなるのか。
保守料金を1年分まとめ払いをしていたとしても、契約では、その役務提供については、月ごととされ、中途解約をした場合、まだ役務提供が完了されていない場合には、その分の返金がされるということが多いでしょう。
そのような場合、経過措置については、月ごとに役務提供は本来完了するものとして、その月の役務提供期間完了の日によって、それぞれ、経過措置の控除割合を判定するということが考えられます。
しかし、国は、今回、経過措置の控除割合引き下げのタイミングにまたがるような継続的な役務提供について、短期前払費用として経理処理をするもは、その全額について、控除割合80%を適用してもよいとしました。
これは、どうせ、いつ損金にしたところで、大した差はないから、事務負担の軽減を図るという趣旨の短期前払費用の特例であるのに、この部分だけ、月割で区分を要するというのであれば、その趣旨に反するということ。
そして、ただでさえ、「事務負担ガー」といわれるインボイス制度について、その制度の定着を優先するとして、割り切りとも言える簡便的な処理を認めたのだと思います。
とはいえ、果たして、本当に令和8年10月から、免税事業者からの仕入れ等に対する経過措置による控除割合の引き下げが行われるのでしょうか。
とっくに決まっていることなのに、また直前になれば反対運動は激しくなるでしょうし、少数与党では、なんだかんだ、期間延長なんてこともあるかもしれません。
編集部より:この記事は、税理士の吉澤大氏のブログ「あなたのファイナンス用心棒」(2025年11月11日エントリー)より転載させていただきました。






